初デート

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「浅井さん、休日とかどうしてるんですか?」 「休日?」 彼はそう言うと、右手でグラスを手に取り口元に当てた。 「休日もお仕事ですか?」 「まぁ。そういう日もありますけど」 「趣味とか、あ、料理とかもしない感じですか?」 彼は飲んだワイングラスをテーブルに戻すと、ちょっと含みのあるような目つきで此方を見て笑った。 「そんなに休日、俺が何してるか気になります?」 「は、はいちょっと気になりました」 「別に、普通ですよ。子供と遊んだり、勉強見てやったり、たまに映画やドライブ行くくらいかな」 え!? 私は目を大きく見開いた。 そして、言葉を失くしていると彼が告げた。 「あ、言ってませんでしたっけ、俺シングルファザーですよ」 シングルファザー… 彼の言葉が頭の中で逡巡していると、今度はポワゾン(魚料理)が運ばれて来た。 浅井さんはそんな私を前に、目の前に料理が出されると、さっさとナイフとフォークを使って、それらを食べ始めた。 「料理、冷めてしまいますよ」 私は彼がちょっと迷惑そうに放ったその言葉で我を取り戻した。 なんとなく気付いていたけど、彼は人を愛せないんじゃなくて、子供以上に愛する存在を持ちたくないだけなのかも知れない。 「お子さん可愛らしいですか?」 私が浅井さんに尋ねると、彼は幸せそうに頷き答えた。 「はい。とっても」
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