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彼女に連れられて中に入ると、オフィスの一番奥にある部屋に案内された。
「社長、面接の方がお越しになりました。」
「あぁ、入って貰って」
彼女はそれから、一言二言何か言葉を交わすと、私の方へ向き直り、中へ入るよう促してきた。
「どうぞ、中へお入り下さい」
私は緊張した面持ちで、部屋の中へと足を踏み入れた。
モノクロを貴重にしたデザインでシンプルなデスクと対面式のソファー。背面は全面ガラス張りで5階とはいえなかなか眺めの良い部屋だった。
彼はあの日と変わらない佇まいで、デスクに置かれたPCに目を通してから、数枚の印刷物を手に此方へやって来た。
面接は結構な数をこなして来たはずだが、それとは違う緊張感があるのは、目の前に彼がいるからだろうか。
「お待ちしておりました。名前は、佐々木さんでしたか?」
「はい、佐々木若菜と申します」
「そちら腰掛けていただいて結構ですよ。まず先に履歴書頂いてもよろしいですか?」
「あぁ、はい。此方です」
私が履歴書を差し出すと、彼は丁寧に両手で受けとって、それに目を通し始めた。
彼は仕事中とあってか、あの日より少しツンとした様子に思えた。元々クールな表情に眼鏡をかけているが甘い顔立ちで昔風に言うならハンサムだった。
でも、この人の妻なら、この面接も私以外にいくらでもいそう。
いや、多分そうだ。
私はいくらでもいる1人に過ぎない…
彼は履歴書に一通り目を通すと、此方に視線を戻した。
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