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「待って!!」
浅井さんの横を走り抜けようとすると、思いっきり右腕を掴まれた。
「離して下さい!」
私は顔を見られるのが嫌で、必死に身体ごと彼に背を向けていた。
「俺が悪かった。こんなやり方間違えてるんだと思う。それは分かってる」
「じゃあ、もう終わりにしましょう」
「嫌だ!」
彼はそう言って声を荒げると、立ち上がって思いっきり私の腕を引っ張った。そして、私の両肩を掴むと強引に自分の方へと振り向かせた。
「や、止めて下さい」
「俺はあなたと距離を縮めたい、ただそれだけです。嵌めようとか、騙そうとかそんなつもりは一切ない」
「そ、それは…わ、分かってます」
彼は相変わらず両肩を握ったまま放してくれそうにはなかった。私は、俯いて自分の表情を必死に隠したまま返事を返した。
「じゃあ、もう逃げないでほしい」
「そうしたいんですけど…どうしても気になることがあります!」
「何だ?」
「あなたは私に過去にも近付いてますよね?」
私は顔を下に向けたまま、浅井さんの表情をチラっと確認した。すごく罰の悪そうな顔をしていた。
「お願いします。答えて下さい!」
私は以前より強めに彼を問い詰めた。
すると、彼は観念した様子でこうボソっと答えた。
「ありますよ。随分昔にね…」
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