初デート

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「昔?」 「あぁ」 どうやら浅井さんはこの話題があまり好きじゃないらしく、ちょっと鬱陶しげにぶっきらぼうな返事を返して来た。 「で、帰るんですか?」 浅井さんは、意気消沈したのか再び椅子に腰を下ろした。 私はこれ以上問い詰めるのは、今は良くないのかも知れないと、それ以上は何も聞けなかった。 ドレスもヘアメイクも、ご馳走もこんなに準備して貰って、嬉しい気持ちは山程感じるのに、彼の態度や言動にはいつも引っかかってしまう。 後一押し、自分から踏み込める勇気がない私は今日はこれが限界。でも、契約だけはしてみようと思った。 彼のこともっと知ってみたいから… 素直にならなきゃ 私は向き直ると、彼に伝えた。 「すみません。今日は色々準備していただきありがとうございました。あなたのこと正直よく分からない部分もあって、私としては掴みづらいんです。でも、今日少しだけもう少しあなたとお近づきになれたらいいなとは思いました」 私が精一杯の言葉で、浅井さんに気持ちを伝えると、彼の表情はみるみる明るくなった。 「本当に?」 驚いた様子で私を見上げると、浅井さんは尋ね返した。 「はい」 浅井さんは、凄く満足そうで、少し安堵したような表情で私を見上げていた。
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