初デート

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「時間もうないの?」 私は小さく首を横に振った。 「後で庭園の夜景でも見に行けたらなとは思うけど」 心がズキンと痛くなった。 なんて顔してればいいんだろう。 またさっきまでと同じように、無理に笑顔を作って食事に戻るべきなのか… 私が立ち尽くして気持ちに整理をつけられずにいると、彼が先に口を開いた。 「あなたは俺が苦手なんだろうなと思ってはいましたけどね」 「違います…そうじゃなくて…」 「はい。今日見ててよく分かりました。あなたの考えてることは」 彼はそう言うとやれやれと言った様子で溜め息をついた。 「作戦変えます。雇用契約の話は破棄。俺と恋してみますか?」 私はその言葉を聞いた途端、身体の奥底から、燃えてしまいそうな程の熱が込み上げてくるのを感じた。 それは初めての感覚で身震いしてしまうほどだった。 私が恥ずかしさのあまりその場で固まっていると、彼は立ち上がって、私のことを抱き寄せた。 そして、耳元でこう甘く囁いた。 「不安にさせることはあるかも知れない。でも、誠意は尽くしたいと思います。それでいい?」
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