初デート

37/45
前へ
/289ページ
次へ
それから食事に戻ったけれど、味はよくわからなくなっていた。 美味しいはずなのに。 せっかくのご馳走なのに、ちっとも味わえていなかった。 私が味気ない食事に勤しむ間、浅井さんはボトルの二本目を頼んでいた。 お酒強いんだろうか? 結構なハイペースでグラスに注いだワインを飲み干していた。 だが、若干目が据わってきたところで、私は彼からボトルを取り上げた。 そして、スタッフを呼びお水を貰うと彼に勧めた。 コースの最後には、本来デザートがついていたが、私達がそれらを口にすることは殆どなかった。 私は酔いが回って虚に遠くを見つめる浅井さんの視線の先に、なんとなく自分が引き返せない道を選んだような不安を見た。 「もう、お店出ましょう?」 私が浅井さんにそう促すと、彼はスタッフを呼び出して、お会計するよう頼んだ。 スタッフは、その場で浅井さんからカードを受け取るとレジへと向かった。 「ご馳走様でした」 浅井さんは私がお礼を言うと、小さく頷くように頭を下げた。それから、少し顔を上げると睨むような目付きでこう尋ねてきた。 「で、この後どうするの?」 私はその言葉に身を強張らせた。 楽しむはずで来たつもりが、何故こんなことになってしまったのか? 多分、それは私が浅井さんの本心に触れようとしまってからに違いない。 でも、私は未だに分からずにいた。 彼という“男性“とどう向き合うか。
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2037人が本棚に入れています
本棚に追加