初デート

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「とりあえず、庭園行きたいなって」 「あぁ。どうぞ」 私達はお店を出ると、階段を登って庭園へと向かった。 デートスポットだけに、人々がそれぞれに週末の夜を楽しんでいた。 私達もとりあえず夜風に当たりながら、庭園を散策した。 庭園には、ダリアやバーベナ、秋明菊、マリーゴールドや薔薇なんかも綺麗に植えられていた。 庭園の屋上は風が強いのかと思っていたが、そう強く風が吹き付けている感じはなかった。 見渡す限り四方はビル群のネオンがチラついていて、夜のデートのクライマックスには最適に思えた。 一方、ロマンチックな景色とは対照的に、酔っ払い気味の浅井さんとは店を出てから会話も無くなってしまっていた。 あれから、5分程度。 いよいよ沈黙に耐えられなくなった私は、立ち止まると、少し後ろを歩く浅井さんに話掛けた。 「あの…ご気分大丈夫ですか?」 「あぁ、大丈夫です」 「ならいいんですけど…私があんなこと言ったから、あなた無理してらっしゃるのかなって」 浅井さんは酔い覚めやらぬ様子で、私をじーっと見つめていた。それから、苦笑いで誤魔化すようにして、視線を逸らせた。 「何かおかしいことでも?」 「いや、恋なんて素面じゃ出来ないよなーって思って…」 私は何も答えられずにいると、彼は何かを察した様子でそれを打ち消すように弁明を始めた。 「いや、貴方に問題があるとかじゃなくて、俺の心理的な事情ですよ…。もう10年近く、まともにそういう気持ちと向き合わずに来たから」 「はい…」 私はいつになくしおらしくなってしまった。 無理に彼の心をこじ開けようとしたのは間違いだったのかも知れない。 そう思って悩んでいると、浅井さんが近付いて来た。
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