初デート

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「ただいま」 宏光が帰社すると、璋子が慌てた様子で宏光に駆け寄って来た。 「どうかしたか?」 「笹井会長から先日のプロジェクトのメンバーについて変更があるとご連絡いただきました。此方、先方から送られて来ました書類です。確認していただいてよろしいですか?」 「そうか、分かった。にしても、久野随分遅くまで仕事してたんだな。てっきり帰ったもんだと思ってた」 宏光は自分のデスクに向かうとジャケットを脱ぎながら尋ねた。 すると、璋子は遠くを見つめながら首を小さく振った。 「最近忙しくて書類の整理がままならない状態でしたので、少し気分転換にデスクの配置換えと書類の整理を行なっていました」 「そっか、お疲れ様」 デスクにあるタブレットPCの電源を入れながら、宏光は返事を返した。 「ところで、久しぶりのデートはどうでしたか?」 璋子は宏光のデスクにそっと両手をつくと、彼を覗き込むようにして尋ねてきた。 「まぁ、初めてだし、あんなもんじゃないかな?」 「それは好感触ということでよろしいでしょうか?」 宏光はうんうんと頷いた。 すると、璋子は呆れたように溜息を漏らした。 「なんだよ?」 「いいえ、あなたのプライベートにあまり口を出すのもどうかとは思っておりますが、この度のプロジェクト、一筋縄では行かないよう思われますが…どうでしょうね」 璋子が不安気にそう口にするのを耳にし、タイピングしていた手を宏光は止めた。そして、鋭い眼差しを向けると問い返した。 「どういうことだ?」 「笹井会長の目的は、いや、このビジネスに興味を持つ多くの人々の大半があなたの後ろ盾にある浅井家との縁を求めているのは承知のことだと思います」 「それがなんだ?」 「浅井宏光、その名を固辞する以上、あなたが思うほどこのビジネスの伸び代は先がないようにも思える反面、あなた自身で勝負するには何かとてつもなく大きな変化がないと厳しいようにも思います」 璋子は眉を顰めて宏光にそう苦言を呈すると、呆然とする宏光を置いて部屋を出て行った。
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