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宏光は黙って璋子の言葉を反芻してみたものの、腑に落ちなかった。
だから、すぐに彼女を追いかけた。
「久野、どういう意味だ?」
璋子が自分のデスクで帰り支度をしているところに宏光は駆け寄ると問い詰めた。
「あなたのビジネスには常に浅井がつきまとう。そのことについて目を背けるべきではないと思ったまでです」
宏光は両手で机をバンと叩くと、黙っていられない様子で璋子をつっぱねた。
「そんなこと分かってんだよ!!俺がどんなに名を上げようとも、向こうは浅井ありきだってことは!!」
「いいえ。このままでは、あなたはまた同じ過ちを繰り返すことになるんじゃないかと…少々心配ではあります」
宏光は璋子の忠告を耳にし、感情が昂ってつい彼女を睨みつけた。
璋子も負けじとキッと此方を睨み返して来たが、パッと目を逸らせると彼女は告げた。
「本音を言うなら彼女とのことはあくまでプライベートの範疇で楽しむ方が、お互いのためなんじゃないかとは思いますけどね」
璋子は口調こそ柔らかかったが、その心は決して穏やかとは言えないことが窺えた。
「ビジネスには巻き込むなってこと?」
「えぇ。この契約結婚にはリスクもあるし、もし本気になってしまえば…」
宏光がギロっとした目つきで彼女を睨み上げると、璋子はハッとした様子で口を噤んだ。
「今日は遅いのでもう帰ります。では、また明日」
璋子は意気消沈して黙り込んでしまった宏光に、一礼すると改まった様子で挨拶をして立ち去って行った。
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