初デート

45/45
前へ
/289ページ
次へ
宏光は暫くその場に座り込んでいたが、璋子が帰ってしまったのもあり、自分のデスクへと戻った。 プライベートな恋愛を長年封印していた宏光にとって、公のパートナーを持つことはビジネスにおいて有利な面があるように感じていた。 しかし、このビジネスの目的の如何に関わらず、顧客が宏光に求めるものは浅井との縁らしきことは宏光自身ひしひしと肌で感じていた。 宏光がやりたいビジネスと周囲が求める宏光のビジネスにおける理想は、どこか似ているようで違う。 そんなことに頭を悩ませながらも今日までやって来れたのは、碧音というかけがえのない存在が居たからだった。 宏光は誰もいない会社で自室に籠ると、込み上げる悔しさに思わず目の前にあるデスクを蹴飛ばした。 浅井の名を捨てられずとも自分で始めたこのビジネスや都心のそれなりに地価も高いこの場所にテナントを借りてオフィスを構えるようになったことは、宏光にとって何よりの誇りだった。 ビジネスと恋愛 その優先順位が簡単に変わることなど 宏光は、あの日から考えたこともなかったーーー 璋子に渡された変更の資料を眺めると、宏光はその名を何とも言えない気持ちで睨みつけた。
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2038人が本棚に入れています
本棚に追加