2039人が本棚に入れています
本棚に追加
あれから、泣く暇もなかった。
葬式の日でさえ、まともに泣いたことはなかった。
葬儀の日みんなが帰った後、彼女の遺骨の入った骨壷を抱いて天井を仰ぐと、自分もこの世には居ないんじゃないかってそう思えたから。
心はとうに亡くしていたと思っていたのだ。
だから、自分でも驚いてしまった。入院したベッドの上であんなに声を上げて泣いてしまう程弱っていたなんて…
自分が一番受け入れられなかった。
入院していた病室は7階で、吹いていた風に誘われるように死のうとしていた。
あの時、佑介が来なかったら、あのまま自分も飛び降りて居たのかもしれないーーーー
「父さん、どうしたの?」
「えっ?」
「また、ぼーっとしてる」
呆れたように碧音はそう言うと、行くよっと宏光の腕を掴んだ。
「あぁ、ごめん」
「また、母さん思い出してたんだろう」
碧音は宏光の心を見透かしたように、眉をしかめて渋い顔をつくった。
「いや、最近お前母さんに似て来たなって思って」
「はぁ?俺そんな似てるかな?あの人に」
「似てるよ」
「わかんないなー。母さんのこと何も覚えてないし」
碧音は寂しさとはまた違ったニュアンスでそう言った。
まだ一歳ならそういうものなのかも知れない。
宏光にとっても妻とは出会って2年。結婚して2年半しか一緒にいられなかったのだから、人生におけるたった数年でしかなかった。
それでも、宏光にとって彼女との4年は人生にとってもっとも貴重な4年間でもあった。
しかし、例え思い出はなくとも産みの親である母について碧音は全くと言っていいほど何も聞いてこなかった。
それは父に対する配慮なのか、それとも、ただ興味がないのか宏光はそこが分からずにいた。
最初のコメントを投稿しよう!