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「最近は、あの子とは会っているのか?」
「あの子?」
「仲良かっただろう。銀座の杉本のうちにいた次男。あいつ最近は父親のサロン継いだそうだな」
「あぁ、佑介ですか?えぇ、たまに会ってます。どうして、彼のことを?」
長次郎は小さく溜め息をつくと、ある雑誌の記事を宏光に差し出した。
それは、佑月というデザイナーのインタビュー記事で、海外の有名なドレスメーカーとダッグを組んで、新ブランドを立ち上げたという記事だった。
「あいつ、学はなかったがデザイナーの才能はあったんだな。受験に落ちぶれて不良やってたようなやつが、大したもんだよ」
長次郎は賞賛しているかのようにも一見聞こえる。だが、軽くあしらうような口振りだったことに嘲笑も感じられる。
「彼は昔から才気溢れる青年でしたよ」
「そうだな、あの子はお前が唯一この浅井でつけた味方だったな」
長次郎はそう言うと、さっきとは打って変わり、目を細めて穏やかな口調でしみじみとそう言った。
「はい。彼は今でも一番の味方です」
宏光は、自慢気に答えた。
長次郎は小さく頷くと、再び話し始めた。
「お前は何のために浅井の人間になりたかったのか?正直それが分からずにいた。でも、最近気付いたよ、お前が欲しかったのは浅井という名家の称号ではなく、ビジネスにおけるコネと名誉だったんじゃないかって」
宏光は否定も肯定もしなかった。
すると、長次郎はこう続けた。
「わざわざ、施設の子を養子にしようなんて、それまでの浅井の発想にはなかった。だが、今になって思えば、朝武に合格することは愚か、ビジネス界での成功を目指せるに足り得る人間すら、この家には誰もいなかったんだって…」
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