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宏光は長次郎の言葉に賛同を見せつつも、心底では同意出来ずに俯いた。
「宏光…」
「はい」
「今の浅井はかつての輝きを失ってしまっている。時代が変わったとはいえ、伝統を重んじる精神とビジネスにおける手腕を発揮出来る人材の育成は急務だ。心苦しいが、碧音の人生にも全く関与しないわけにはいかない。
それにお前にも、そろそろこの家を執り仕切る立場としての振る舞いやしきたりなんかも伝えて行かなきゃいけないように思う。
まずは、そろそろ身を固める準備もして貰わないとと思ってな」
長次郎は何やら穏やかに聞いていられない自身の思惑をたっぷり宏光に聞かせてから、少し意地悪そうな表情で此方を見た。
「どういうことですか?」
「宏光、お前のためにいい縁談がある。中学受験となると、碧音に負担もすごいことだろう。彼女なら、そのプレッシャーなんかもよく理解出来ると思う」
長次郎はそう言うと、使用人を呼び何かを受け取った。
宏光は嫌な予感しかしなかった。
だが、気まずそうに目線を逸らる宏光を前に、長次郎はやや強引に表紙を開くと写っていた人物を勧めた。
「彼女はお前のことを一番理解しようとしていた、他に誰がいるというんだ?」
宏光は写真を一目だけ見て、それを拒否するかのように視線を上げると、唇を固く閉じた。
写真の女性は宏光の世話係だった女性の娘
神尾凛だった。
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