新しい風

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「初めましてというか、久しぶり。覚えてる?俺のこと?」 ちょっと明るい茶髪に、瞳の色素も薄くて肌も白い。雰囲気は全く違ったが、どことなく最近出会った誰かに似ている気はした。 ただ、名前も中野だし整った中性的な顔立ちって、みんな似たり寄ったりに見えないこともない。 私はそれでも必死に記憶の中にある人物の顔を必死に探っていたが、暫くして首を横に振った。 「すみません。ちょっと覚えていません」 「そっか。そうだよね。随分昔の話だしね。仕方ない。これは見覚えある?」 彼らはそう言うと、ある雑誌を開いて此方に差し出してきた。 私はその雑誌には見覚えがあった。 あの黒歴史としかならなかった売れないモデル時代、唯一、見開きで休日デートのコーデ特集 に起用して貰った回のものだった。 こんなもの、どうして彼らは探して来たんだろう?と思いながら、よくそれを見てみると、自分はともかく、隣にいた相手役の男性は、今目の前にいる彼そっくりだった。 「えっ?あの、これは中野さんですか?」 「あ、はい。そうです」 彼は満面の笑みで頷いた。 あれ?確かこの人、この後金髪にしてから凄い売れた人じゃなかったっけ? 「あなたはTAKERUさん?」 「はい、やっと思い出しました?」 私は首を激しく縦に振った。 私はあの後何一つ光るものがなくて、おまけにその当時は華奢なフェミニンなファッションが流行っていたのもあって、一向にいいポジションにはなれなかった。 それに反して、彼は色んなモデルの恋人役に抜擢され、終いにはメンズモデルの方でも表紙を飾っていた謂わば一流モデルさんだ。 そう、私のような二流、いや三流にもなれなかったモデルとは別格だった。 でも、TAKERUは売れたのは確か4〜5年でその後雑誌に出ることは滅多に無くなった。 でも、大学の友人数人から彼のサインが欲しいと頼まれたことだけははっきりと今でも記憶していた。 そんなモデルさんが、何故ここに?!
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