新しい風

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「あ、やっぱりTAKERUは知ってるんだね。いや、履歴書の写真見せたらさ、この雑誌の子ですよねって言われてビックリしたよ。佐々木さん、学生時代モデルやってたの?」 赤西さんが軽快な口調とテンポで、私に尋ねてきた。 「いや、やってたけど全然売れませんでしたし、就活する頃にはすっかり呼ばれもしなくなって、読者モデルより知名度低かった気します」 「ワカメちゃん、背高いから目立ってたけどね。売れないっていうかまぁあの当時は可愛い感じ流行ってたしね。受けてはいなかったかな」 笑ってそう言い切る中野さんと、それを嗜めようとする赤西さん。 それに、あんな短期間でワカメちゃんってあだ名覚えてるなんて、どんな記憶力してるんだろう? 私はそんな二人を苦笑いで見守るしかなかった。だが、それよりも今は気がかりなことがあった。 私は邪念を振り払うと率直に質問した。 「ところで、私はどんな仕事をすることになったんでしょうか?」 赤西さんは少し罰の悪そうな表情になると、一枚のファイルを此方に差し出して来た。 「実は、うちがネットショップや通販サイトを運営する記念イベントとして渋谷でちょっとしたファッションショーやることになったんだけど、ショーに起用したモデルの子がトラブル起こして、デザイナーともあまり合わないみたいで辞めちゃったんだよね」 「あー、なるほどそれは大変ですね」 「そうなんだよ。おまけに元モデルって先にイベント用の告知に書いちゃってて、今更変更するにもちゃんとした事務所の子は見つからないし、オーディションする暇もないしってなって…たまたま彼が君覚えてたから、もし良かったらお願い出来ないかなって?」 赤西さんからは困り顔でなんとか説得したいという意思が強く感じられた。 その横で特に口を挟む様子もなく、中野さんは冷静に私達のやりとりを見ていた。 思ったより悪い話ではなくて、内心ほっとした。でも、もう10年近く離れてしまったモデル業、そんないきなり代役なんて果たして務まるんだろうか? 私の胸にはもやもやが残り続けた。
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