仮面

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行き交う人々の中には、ちらほら画面を見てる人もいるようだったが、私はとにかく恥ずかしくなって、その場から走り去った。 あー、やばい。 顔が火照る。もうすぐ約束の時間だというのに、さっきの言葉に思わず顔が緩んでしまう。 ダメだダメだ 気を引き締めないと。 ある人物と待ち合わせしていたカフェに着いた私は、入店する前に立ち止まった。そして気合いを入れ直してからお店のドアをくぐった。 相手から連絡が来たのは久しぶりだった。 何故相手は私の連絡先知っていたんだろうと思いながら、店の中へ進むと一際派手な人が見えた。 私は相手と目が合った途端、歩みを止めてしまった。 「もう、3分前よ。ギリギリ間に合ったわね」 「すみません、千瑛さん」 私は何も悪いことなどしていないはずなのに思わず謝っていた。 だが、千瑛さんはそんなことお構いなしに私の手を引っ張ると、席へと招いた。 「いいわ。そっち座って」 「はい」 私は言われた通り指示に従った。 しかし、千瑛さんは今日も美しかった。近づくとほんのりハーブ臭もする。 そんな彼女の今日の装いは秋を感じさせるものだった。深い緑色のワイドパンツを履き白いリブ編みのニットを着ていて、上にパンツと同系色のジャケットを羽織っていた。足元は黒の本革のショートブーツだった。 大人の落ち着いたコーデにも見えるが、彼女が着ると派手に見えるのは、スタイル含めて小顔な上にとにかく華奢でお人形のようだからだろう。 歩く人形。 だから、度々感じる他の客からの視線に戸惑いながら、私は肩身の狭さを感じつつ、対面の席に座った。 席に座ると彼女は高級ブランドのLOGOが入ったバッグから小さな黒いケースを取り出した。 そして、こう告げた。 「これ完成したの。浅井さんから先に報酬受け取っちゃったから、早めに手渡したくて呼び出したの」
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