仮面

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千瑛さんはそう言うと小瓶を差し出してきた。 「これは?」 「こないだの打ち合わせの結果を元に、サンプル作ってみたの。試してみて」 私は千瑛さんから小瓶を受け取ると、手首にシュッと一吹きした。 その瞬間、爽やかなレモンのような香りとフレッシュでスッとするようなハッカ系の香りが私の周囲に漂った。 「凄くいい香りです。爽やかな風に当たっているような気分になれるし、緊張している気分もほぐしてくれそう」 私が心地よい気分になって、テンション高めに感想を述べると、千瑛さんは満足そうに笑った。 「これ、実はハーブと漢方を組み合わせてあるの。だから、ただの香水としても使えるし、メイクの崩れや髪にも使えるのね。あのドレスがグリーン系だったから、レモングラスやセージ、地黄や当帰なんてのも混ぜてみたの。同じタイプのシャンプーと使うとより香りの効果が持続させられるわ」 「へー。漢方も入ってるんですね。漢方って独特の香りがあって、そのちょっとキツい香りしますけどこれはそう感じませんよね」 「調合するときには計算してるから、そこまでクセは強くないはずよ」 千瑛さんはそう言うと、目の前にあったティーカップに入った紅茶を手に取った。 私はもう一度、香水を吹きかけた手首に鼻を近づけてみた。 やっぱり落ち着くし、凄く爽やかだ。 こんないい匂いってなかなか嗅いだことがない。だけど、彼女は何故香りなんて研究しようと思ったんだろう? 日本にいるとハーブは大人になれば興味を持つ人もいるが、あまり馴染みのないものではあった。 そう思っていると、スタッフがお水を持って注目を取りにやってきた。 「お客様、ご注文お決まりでしょうか?」 「まだです」 「此方お水失礼します。ご注文お決まりになりましたら、またお呼び下さい」 「はい」     私は小さく頭を下げると、カフェのスタッフが去っていくのを横目に千瑛さんに質問した。 「千瑛さんって、なんで香りの研究しようと思ったんですか?」 彼女はそう尋ねた私を見上げて、フフッと笑うと、すぐに答えてくれた。
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