仮面

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「魔女になりたかったの」 私は目が点になった。 「子供のとき大好きな絵本があって、その中に魔女が出てきたんだけどね。私は魔法は使えないけど、薬草や植物について学んで博士になれたらなぁって思ったのがきっかけ」 「へぇ〜」 子供の頃に抱いた夢を実現させるなんて、それは本当に凄いことで、大人の今になれば尊いことでもあった。 千瑛さんはちょっと照れ臭そうに視線を外すと、声のトーンを下げて話を続けた。 「あの頃って純粋じゃない?私はその現実の世界で生きてるって実感するより、絵本とかの世界に行きたかった。ううん、いけるもんだと思ってた。自分もその魔法学校から呼び出して貰えるんじゃないかって」 「あはは、それは想像力豊かですね。でも、確かに子供の頃って魔女になりたいって思うことありましたね。うちで魔女宅見て箒にのって遊んでました。魔女になれる気しますよねアニメとか見てると」 「やるよね〜、私もあの映画大好きだった」 千瑛さんはそういうと無邪気に笑った。 思い出せば、あの頃はよく魔法の物語が流行っていた。子供にとっては一度は憧れたりはするもんだろう。でも、わざわざ本場に留学して学ぶなんて、彼女はどれほど志しが高いんだろう。 「千瑛さんって、ほんと凄いですね。子供の頃の夢も叶えて、才色兼備であなたに敵う相手はほぼいないんじゃないですか?」 私は調子にのって(おだ)てるように言葉を並べると、千瑛さんは急に表情を曇らせて俯いてしまった。そして、強く首を横に振ると、自信をなくした声で答えた。 「そんなことないわよ。私なんて全然期待もされてなかったしね。今でこそちょっとは評価も知名度もあるけど、学生時代は何をやってもダメだったからね」 「こないだも佑月さんそんなこと言ってましたけど…信じられないです」 「全然、結局彼女に敵わないままだった」 千瑛さんは明らかに落胆した表情を見せると、カップに残っていた紅茶を再び手に取り飲み干した。 私は首を傾げると、千瑛さんを見つめた。 彼女?千瑛さんが敵わない相手って誰だろう? すごく気にはなったが私は聞けずにいた
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