仮面

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「やっぱり超綺麗だね。流石大女優って感じ」 「ねぇ、あんだけ並んだ甲斐あったよね」 「限定コスメ高かったし、先着順でしか整理券配られないって聞いたけど、あまりに人多くてちょっと焦った」 「わかる、もう35だしあんなに人気あるとは思わなかった。やっぱり生は別格だね。肌めっちゃ綺麗だった」 2人の私と同年代の女性がスマホ片手に興奮気味に会話していた。また、彼女達の座っていたテーブルの上には、有名な化粧品ブランドのLOGOが入ったショッパーが置かれていた。 「びっくりした。大女優って誰ですかね?」 千瑛さんは興味なさそうだったが、彼女達の方を一瞥するとこう返してくれた。 「神尾凛じゃない?あのブランド、mAzeでしょ?確か彼女は今あのブランドと契約してるはず。ほら?」 千瑛さんはそう言うと、自分のスマホで検索したそのブランドのトップ画面を見せてくれた。 た。画面の中で美しく微笑む彼女は透明感で光って見えた。 透き通るような白い肌に、キュッと引き締まった口元。目元はキリッとした切れ長でまつ毛の長さが際立っていた。瞳は漆黒のガラス玉のようで見つめられると、吸い込まれそうな雰囲気があった。 「神尾凛かぁ。確かに綺麗ですよね、もう35なんですね。デビューした時、彼女にしたいってよく男子騒いでたなぁ」 「まぁ、名前もミューズっぽいよね、本名らしいけど」 「よく知ってらっしゃいますね。千瑛さんも神尾凛のファンですか?」 私がそう尋ねると、彼女は小さく首を振った。 ただ、私はその時気づいてしまった。 自分の手元の画面に映る女性と今目の前にいる千瑛さんがなんとなく似ていることに… ただ似ているだけなのか、それとも… いや、でも、相手は大女優だし… 似ているだけで別人な気もするなぁなんて思いながらいると、スタッフが注文したシトラスティーを持って来た。 「お待たせしました。シトラスティーです」 スタッフの女性はにこやかに微笑むと、私の前にコースターを置き、シトラスティーのグラスを載せた。最後にストローを脇にそっと置いた。 「ご注文は以上でしょうか?」 「はい」 「伝票此方に失礼します。ごゆっくりどうぞ」 私は彼女に軽く会釈で返した。 私がスタッフが去っていくのを見届けて、飲み物に手をつけると、千瑛さんが声を掛けてきた。
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