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「菜々。」 授業中に話しかけてきたのは、同じクラスの6年3組の林美希だ。小学校の中では1番仲のいい友達だと思う。 「おーい、柳沢と林喋るな〜!」 「「すみませーん」」 なんで俺までという言葉は飲み込んだ。 「後で話そうね」 コソッと俺に呟いてきた。 そう言うと美希は授業に目を向けず、ずっとシャーペンをいじっていた。 授業が終わると美希は話しかけてきた。 「話があるから教室出よう」 すぐに頷き美希の後について行った。 林美希は周りをよく見ている人間で、気遣いがよくできる。話し上手は聞き上手、この言葉は美希にピッタリだ。 クラス内でいえば中立の立場だろう。 「菜々。困り事ある?」 唐突に言われて、少し戸惑った。 以前、担任の先生に性別の悩みを話すと困った顔で返されたからだ。 普通のことじゃない。そんな事くらいすぐに分かった。 でも、優しい美希ならと思い少しだけ相談しみた。 「俺…男なんだ。」 すると、心底驚いたような顔をする美希。 「男になりたくて俺って言ってたの?」 そうだけどそうじゃない。男だけど男になれない、させてくれない。 ︎︎ ︎︎ ︎︎一人称の"︎︎俺︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎は小さい頃から使っているため周りはそれを普通だと感じていた。 感情のままに伝えたかったが、俺は丁寧に一つ一つ伝えた。 俺は生まれた時から性別は男なんだ。確かに体は女の子の体だけど、心は男なんだとネットに書いてあったことを参考に思い出しながら一生懸命説明をした。 怖くて汗ばむ手を握り締めながら俯いた。 「菜々、そんなに悩んでいたんだね」 ふと顔を上げると美希の顔は真剣で、その後も俺の話を否定せずに聞いてくれた。 空が赤く染まり始めた 「またね」 多分俺はそのとき頬が緩んでいたと思う。人に頼るとこんなに気持ちが楽になるんだ、と初めて知った。 「ただいま」 そこには誰も居ない。父は交通事故で亡くなり、母はずっと働いている。 いつもは冷たいご飯だが今日は少しだけ温かく感じた。
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