インターンシップ

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インターンシップ

 カレンダーの『旅行』の文字に黒マジックで横線を引いたのは、俺の怒りがじわじわと募ってしまったからに違いない。    予定を決めた二日後。つまり大井が予約を取ろうとしたその日。グループ内に玉崎から一件のメッセージが入っていた。 『ごめん。十二日と十三日、インターンシップが入ってた』    最初は文字面を見ても何も頭に入ってこなかった。ユングの唱えている言葉みたいに、受け入れたくても難解過ぎて脳内が拒否してしまったのだろう。だけど何度も読めば断片的に理解はできる。    俺は知った。玉崎が予定の確認をしていなかったことを。 『何やってんだよ。予約する前だったから良かったけど、予約していたら悲惨なことになっていたぞ』    大井もさすがに呆れているようで、その一言の字面から怒りと呆れを感じ取ることができた。 『確認しなかったの?』 『いや、あのときはしたつもりだった。でも今日もう一回見たら、インターンシップの予定が入ってたんだ』 『マジか』 『ごめん』    なんだこいつ。それが俺が抱いた率直な気持ちだった。せっかく立てたはずのプランは、藁の家の如く風に吹かれて呆気なく崩壊した。 『十三日の午後からは大丈夫』 『ってことは、一泊二日か。それも近場の方がいいな』    俺たちの関西ツアーは見送られ、行先の変更を余儀なくされた。 『天野、どこか行きたいところある?』    大井が俺に振ってくる。俺は首をポキポキ鳴らしながら考える。凝り。最近こいつが厄介だった。 『じゃあ、温泉がいいな』 『温泉か。近場なら、鬼怒川はどうかな?』    名は聞いたことがあったが、行ったことはない。それに、温泉なら正直どこでもよかった。 『良いと思う。俺も行ったことないから』 『玉崎はそれでいい?』 『うん。大丈夫』 『よし。じゃあ今回の旅行は一泊二日の鬼怒川で。一日目は温泉入って、二日目で観光ってことで』    随分と簡素な旅行になってしまった。だが、旅館で酒でも飲めば楽しくなるだろう。温泉だって気持ちがいいはずだ。 『了解した』    俺はカレンダーに小さく『鬼怒川旅行』と付け足した。
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