第一章 スライム生活

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第四話 魔物  遅かった。  私の考えが、足りなかった。  私は、このまま魔物(スライム)生を終えてしまうのだろうか?  山の頂上から、丸くなって転がった・・・。までは、よかった(と、思いたい)。木々にぶつかっても痛くは無かった。岩にぶつかって止まってしまったことは有ったが、問題ではなかった。  転がっている最中に、名前が把握できている草木を、取り込みますかと連続で言われて、面倒になって、自動で取り込めないかと考えたのも問題ではない。その結果、自動採取という項目が増えたのも、問題ではない。何も、問題ではない。アイテムボックスの中に、草木が大量に溜まっているのも、問題ではない。見たくはない昆虫も取り込まれているが問題ではない。  岩にぶつかって、止まる以外にも跳ねてしまったのも問題ではない。  今の状況以外は、計算していなかった事だが、問題ではない。  うーん。  なんで、平気なのだろう?  私は、谷を流れる川に到着して、そして・・・。川に落ちた。川幅は、4-5メートル。人だった時には、絶望する幅だ。深さは、浅い所は、歩いて渡ることができるが、人だった、足が綺麗で長かったときの話だ。今は、全裸の身体(スライムボディ)全部が水に浸かっている。前々日に降った雨の影響なのか、川の流れが早い。体重が軽くなった私(もともと、重くないはず。平均よりも軽かったはず)は、水の勢いに流されてしまっている。  おかしいのは、川の流れに、ながされている状況で、冷静に考えていられることだ。  この状況になってから、一度も水から出ていない。  泳ぎは得意だった。小学校の時にあった、服を着たままの水泳で男子に勝ったこともある。長泳ぎにも自信はあるし、潜水時間も長い。  もしかして、スライムボディは、酸素を必要としない?  スライムの通常形態(?)に戻って、水に流されている。  呼吸を必要としなくて(鰓呼吸と肺呼吸の両方が出来る。という可能性もあるが)、熱耐性に、物理耐性。本当にスライムボディは優秀だ。これで、某魔王のように人の形状を取れて、大賢者(ラファエル/シエル)様がスキルとして芽生えてくれたら最高だけど・・・。  このまま川の流れに乗っていけば、海までいける。  海から、家までは越えなければならない関門が増えてしまう。できれば、国道の前で反対側に渡りたい。  そうだ!  水を吸い込んで、吐き出せないか?某魔王が、使っていた技だ。  簡単にできてしまった。ただ、勢いが付きすぎて、川から飛び出して、空中からの眺めを2-3秒楽しんだのは計算外だった。  しかし、おかげで、関門と考えていた、川の防波堤を超えることが出来た。  防波堤の先にある。茂みに着地が出来たのは、偶然だったが、結果としては最良だ。  場所を確認するが、見上げる視線では、よくわからない。鉄塔があるので、海には近づいていない。  私が住んでいた町ではなく、隣町のようだ。少しだけ高い所に登ったら、いろいろ見えてきた。  川に沿って、道が作られている。私が下った山の方にだけ道が作られているから、まだ隣町だ。両方に道が作られていたら、私の住んでいた町に入ったことになる。 ”ぽよんぽよん”と弾む身体で、川に沿って下る。  5分くらい移動したら、橋が見えてきた。やっと、分かる場所まで移動できた。  見慣れてはいないが、分かる場所まで来ると少しだけ安心する。ここから、山道に入ってもいいが、もう少しだけ川を下る。  スライムの身体で、もう一つ優れていることを発見した。  排泄の必要がなさそうということだ。乙女としては、おしっこもうんちもしないが、本当に必要なくなったようだ。それに、空腹も感じなくなった。  何かを意識して食べて(吸収?して)いないから、まだわからないけど、味を感じられたら嬉しい。  跳ねながら、草が生えている場所を進んでいる。  何かが動く感じがした。  人かと思った。肌が緑色だ。掲示板で見た、”ゴブリン”だ。私の存在には気がついていない。  もしかしたら、魔物(スライム)だから、気が付かれていない?  他には、ゴブリンだけではなく魔物は居ない。  掲示板に書かれていたように、魔物は単独で行動している場合が多いのは、本当なのだろう。  どうする?  倒す?  魔物同士でも戦っているという話も読んだことが有る。  息を大きく吸って、大きく吐く。気分の問題だ。  攻撃手段は、岩をゴブリンの頭上から落とす。  1メートル四方の大きな岩だ。かなりの重さだろう。どのくらいの高さから落とせば良いのだろう?  ギリギリまで近づいて、頭上に落とそう。安全に倒したいが、私はスライムだ。RPGでは最弱な魔物だ。多分、この世界でも最弱なのだろう。  足音はしないだろうけど、草が揺れる音はしている。  ゆっくりと、しかし確実に、ゴブリに近づく。ゴブリンは、何かに夢中になっている。食事中なのかもしれない。  5メートルの距離まで近づいた。 ”え?”  ゴブリンは、犬を食べている。飼い犬なのだろうか?  犬に夢中になっている。ゴブリンも、食べ物を必要とするの?そんな話は、どこにも書かれていなかった。家に帰ったら、パソコンで調べてみよう。忘れなければ・・・。  落ち着け、落ち着け。でも、なるべく早く。ゴブリンが食事を終える前に・・・。 ”よし。やろう”  アイテムボックスを起動する。山を転がり、川に流されて、いろいろな物がアイテムボックスに溜まっている。  焦る気持ちを押さえながら、岩を探す。ソート機能くらいは欲しいけど、ソートしようにもキーワードが思いつかない。 ”あった”  岩を選択して、リリースする場所を特定する。 ”よし!”  岩を、ゴブリンの上、約5メートルでリリースする。  スローモーションのように落下する岩。  感覚では、3-4秒程度、必要だったが、ほんの一瞬だろう。ゴブリンが驚きの声と断末魔を上げる。  永遠に続くかと思われた断末魔が聞こえなくなった。 ”ふぅ。倒せた!” 『スキル:スキル・経験保持を得ました』 ”え?何?スキルを得たの?本当に?”  スキル・経験保持?  何が出来るスキルなの? ”スキル・経験保持” 『アクティブ』 ”え?”  何?アクティブって何?  何か、変わったの?  身体には、何も変わりが無い。記憶も、消えていない。説明が聞きたいのに、説明が流れない。  アクティブって有効になっていると思っていいの?  よくわからないスキルが増えた。  今日は、本当によくわからないことだらけだ。  1対1の戦闘なら、同じ戦法が使えそうだ。ドラゴンとか出てきたら諦めよう。岩を落としても亀の魔物とかだと、耐えられそうだけど、そのときには全力で逃げよう。逃げる方法も考えたほうがいいかもしれない。  普段は使っては居ないが、家まで行ける道に出た。  この道が見える場所を移動すれば、安全に家まで行ける。  魔物(ゴブリン)も倒せたし、家に帰って休もう。  全裸の乙女だけど、川で泳いだけど、お風呂には入りたい。そう言えば、スライムボディは汚れにも強い。川から出て、草むらを移動したのに、綺麗なボディのままだ(多分)。  自転車は諦めよう。  魔物に遭遇しないで、無事に家に到着できた。  カバンから鍵を取り出す。触手を伸ばして、鍵を開ける。よかった。開けられた。即座に、警報装置を、在宅モードに切り替える。  自分の部屋には鏡は置いていない。  お風呂場に向かった。  脱衣所に移動して、カバンからキャミソールを下着と靴下を取り出す。  洗濯カゴに入れてある物と一緒にアイテムボックスに入れてから、洗濯機の上でリリースする。うん。以外といろいろ出来る。  靴を玄関に置いてくるのを忘れたから、玄関に戻る。普段はしないが、鍵を厳重にする。門は開けていないから、門を誰かが開けたら警報がなるように設定を変える。これも触手を伸ばしてタッチパッドを操作する。  タッチパッドが使えたのは良かった。使えなかったら、方法を考えなければならなかった。  落ち着いて、リビングに置いてあるソファーにスライムボディを預けて、TV画面に映る。スライムを見ながら考える。 ”ふぅ。これから、どうしよう?”
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