『禍津火』

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『禍津火』

溶けた鉄が 突如大気の中に生じた マグマは天空を覆い、溢れ、 髪を、肌を、爪を、 目を焼いた 眼球が発火し、炎をあげたのが 目の内から見えた 灼熱した闇が世界を(くる)み、 それを吸い込んだ者が内側から燃えている 大気は豪重な巨岩となって僕を圧し潰した 嵐が四方から押し寄せ、 あらゆるものを引きちぎって 吹き飛ばしていく 体も、心も、 世界の全ては 前後無く、 左右、上下も失い、 散り散りになった 業火に水が燃え、 叫びに大気が消え、 毒に地が沈み、 人が、鳥が、獣が、魚が、 草が、木が、水が、土が、大気が、 百万の雷鳴を合わせたような轟の下から 遥かに大きな悲鳴をあげている 泥のような嵐の塊は 毒々しい橙色をこぼしながら膨らんでいく 人の世を飲み込み、 空と地と大気を押し破って 汚れた傘が開いていく
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