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長めの前髪を軽く振り、佑が一華の手を取る。その動きには年頃の少年によくある迷いも照れもなく、佑がフィギュアスケートのペア選手であることを強く感じさせられた。実はこの時、一華は少しドキリとしたのだが、そこは年上の矜持があって平然とした態度をなんとか保つ。
「じゃあ、ハンドトゥハンドで少し滑ってみろー」
いつの間にか偉そうに指示を出す桐生もいて、一華はそのままリンクを佑と一緒に滑り出す。周りはそれを見守るしかできないと諦めたようで口出しはなく、桐生の手拍子がリンクに響く。
エッジで氷を押して進む。誰かと手を繋いで滑るなど、いつぶりだっただろうかと一華は懐かしさを感じる。初めてリンクに来た日、手を引いてもらいヨタヨタと滑った日のことを思い出す。だが、そんなノスタルジーに浸れたのはほんの数秒だった。
「早っ、足ながっ」
佑はその長い足のため、ストロークの足幅が大きい。さらに、スケーティング技術も抜群なため、下手をすれば速さに付いていけず手が離れてしまいそうだ。
「すみません」
一応、足幅は途中で気付いて修正してくれたようだ。それで着いていけなければ負けたようだと一華はギアを上げる。
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