一 ハンドトゥハンド

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 選ばれなかった理由を見せろという愚痴は尤もだが、それは危険なことでもある。 「あのさ、知ってると思うけど、ペアはフィギュアスケートの中で、最もダイナミックかつアクロバティックな競技である半面、 怪我が多くて最も危険な競技だ。スローやれとか冗談だよな?」  少女たちの隣の桐生は、笑顔だというのに、まったく笑っていないという表情で周りを威圧する。  フィギュアスケートのペア演技といえば、女性のジャンプを男性が補助して投げるスロージャンプや男性が女性を投げ上げて空中で回転し、女性をキャッチして着氷するツイストリフトなど派手なものが多い。けれども、こんな大技は練習積んだペアでも怪我をすることがある代物。それを今日出会ったばかりの二人がやるのは土台無理な話なのだ。  桐生の態度に、リンクサイドは気まずいくらいの静寂に包まれる。 「ねぇ、でもあれ跳ぼうとしてない」  リンク上では、スピードに乗った佑と一華のしっかりと握られていた手が、緩やかに解かれていた。けれど、それは失敗には見えない。  離れていても、二人は繋がっているかのように動きをシンクロさせて滑っている。
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