一 ハンドトゥハンド

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「はぁ」 「姉ちゃん、なんか疲れてない。ビタミンでも取れば」  大きなため息をつきながら、一華は朝食の目玉焼きを突っつく。そうすれば、テーブルを挟んで向かい側に座る弟の一希(かずき)が、心配してイチゴを一つ皿に置いてくれる。 「ふふっ、一希くん聞いて。一華ちゃん、なんと一ノ瀬佑くんのパートナーに選ばれたの。カップル結成よ」  焼きあがった追加のパンケーキを一希の皿に載せながら、母親がはしゃぐように報告する。一華たちの母はフィギュアスケートが大好きで、子どもに習わせた口だった。しかし、一希の琴線には触れなかったようで、今は同じ氷上のスポーツであるアイスホッケーに取り組んでいる。 「一ノ瀬佑?」 「そうよ、一希くんと同級生よ」  普段は料理動画を見るために置いてあるタブレットを取り出した母親は、どこで撮ったのか佑の写真を表示させる。  サラリとした少し長めの髪に、切れ長の涼しげな目、十六才という年齢の割に落ち着いた大人の表情を浮かべる佑はフィギュアスケートファンの中ではちょっと有名な存在だ。だからこそ、一華は気が重いのだが母親のテンションはトライアウトの後からウナギ登りだ。
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