一 ハンドトゥハンド

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 野辺山とは、全国有望新人発掘合宿のことで通称野辺山合宿と呼ばれている。全国からノービス世代(九才~十三歳)の選手百人程が長野県・野辺山の帝産アイススケートトレーニングセンターに集まり、三泊四日の強化合宿を行う。合宿中は氷上、陸上でトレーニングや体力測定を受けるほか、ジャンプのエレメンツ発表や演技会も行なわれ、選手の将来性を判断する。その結果、有望選手はシード選手に選出され、全日本ノービス選手権のシード権を与えられるほか、海外での試合に派遣されるなど国際経験を積めるようになる。 「あぁ、迷子になってたのに歌いながら踊ってたってやつ」  聞いたことがあると一希までも口を挟んできて、一華は口を尖らせる。 「別に迷子になったんじゃないもん」 「そうなの? でも、それより二人とも学校の時間は大丈夫?」  母の言葉に、子ども二人が同時に時計を見るため振り返る。 「やだ、こんな時間!」 「やべ、いってきます」  もっと早くに教えてくれと文句を言う時間も惜しく、一華はニコニコと笑う母に見送られて大学へ向かった。
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