一 ハンドトゥハンド

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 一華が挨拶すると場内はざわつく。もちろん良い話ではないため、一華は耳に入れないようにしながら  ストレッチと軽いランニングのアップを済ませてスケートリンクに降り立つ。 エッジが氷を押すブレードの静かな重低音に耳を傾ければ、外野の声を気にしないのは簡単だ。しばらく滑り続け、休憩のためにリンクサイドに寄ると数名の大人に囲まれた少年が現れる。 「今日は貸し切りですか」 「うん、ジャンプやスピンをしても大丈夫だよ」  一般開放されているスケートリンクでは、通常ジャンプやスピンが禁止されていることが多いが、今日はスケート連盟による貸し切りでリンク上での制約はない。 「……これで本当に貸し切りですか。人数が多いですね」  数名いる大人以外は女子しかいない空間に現れ、眉を寄せる少年に少女たちの視線が集まる。 「彼が一ノ瀬佑(いちのせたすく)か」  リンクに戻り周回しながら一華は呟く。チラリチラリと彼の様子を窺うのは誰もが同じ。彼は今日の主役であり、ここにいる女子は彼とカップルになることを希望している。
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