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まだ十三、四歳だろう少女たちにクスクスと笑われ、おばさんと呼ばれた一華はやっぱりなと息を吐く。一華は、トライアウトの条件である十三歳から十八歳のバッチテスト七級以上の選手という要件から外れていたため、彼女たちが文句を言うのも仕方がない。だが、大人には大人の事情があるのだと、一華はキリリとした目で周囲を牽制するよう見回してから口角を不敵に上げ、聞こえてくる声に怯むことなくリンクを周回し続ける。
「図太いよね。さすが、おばさん」
「悪意のある言葉でなんか動揺しないよ。動揺を誘いたいなら、ジャンプやスピンで魅せないと。頼まれて来ただけで、貶められる謂れはない」
悪口に夢中な少女たちと、不機嫌そうな本日の主役の男を交互に見比べてから一華は周回するスピードを上げて勢いを付け、右足のトウを突き高く飛び上がる。
一回、二回、三回と高く軸のぶれないジャンプに、勢いなど感じさせない優雅な着地。リンク内の誰も文句を付けることのできないジャンプに、先程までのざわめきが消えて静かになる。
「三回転ルッツだ」
「やっぱり上手いよ、あの人」
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