一 ハンドトゥハンド

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 佑が、自分の名前どころか詳しい経歴まで知っていたことに一華は驚きつつ苦笑いを浮かべてしまう。確かに佑の言うことは概ね間違っていないが、本当に一華が天才少女だったならば連盟の大人が覚えていない訳がない。その点において、佑の説明は間違いというか大袈裟で、一華に苦々しい想いを抱かせた。 「んっ? 八年前で十一歳ってことは……えっ、今って何歳?」 「十九歳……今年二十歳になります。年で悪かったですね。トライアウトの条件からも外れていますけど、推薦されて来たので無理矢理来た訳ではないですから」  今、そこに突っ込むかと、さらに一華の機嫌は下降する。気にした素振りは見せていなかったが「おばさん」呼ばわりされていたことが、ボディーブローのようにジワジワと効いていた。 「あっ、いや、年を取ってるとか言うつもりではなくて……そう、ジュニアには出られないなと思ったんだ。結城さんは小柄だし、ジュニアの選手くらいに見えるよ」  さすがに女性相手にまずい発言だと気付いたのだろう、すかさずフォローが入る。だが、ジュニアの選手に見えるというのは誉め言葉ではないだろう。
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