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あ、もしかして、彼女……
人ごみをかき分けながらメイドが走ってくる。急いでいるみたいで、かなり本気で走っている。すれ違いざまに僕は直感した。そして振り返って、後ろ姿を見ながら、確信する。間違いない。彼女だ。
すぐさま後を追いかけた。そうしなければいけないと思ったから。
ラジ館前をつっきって、角を曲がってゆく。その後に続いて角を曲がる。一瞬、見失ったと焦るけど、メイド服はやっぱり目立つから、良かった。いろんな意味で。
通りすがる人は彼女に気を取られ、道をあけながら振り返っている。万世本店の方へ向かっているみたいだ。
彼女の足の歩調と僕の歩調がシンクロしながら、橋を渡りきる。渡りきったところに公衆トイレがあって、ちょっとタイミング的に追うのはまずいと立ち止まった。
不思議な感じだった。
なんの迷いもなく男子用トイレに入っていくから。
後に続くのもあれだし、しばらく様子をみることにした。
声をかけて、僕のことを覚えてるだろうか。
変態だとか思われたらどうしようかと、ドキドキしながら待つんだけれど、しばらくが十五分も経てばかなり長い。おかしいなと入口をウロウロしながら、また十五分が過ぎ。公衆トイレを出入りした人はいるのに、彼女は一向に出てこない。
心配になってきて、いやいや、どうもおかしいぞと気づいた時に、僕は大マヌケ野郎だと自分に言っていた。
急いで中に入ると、やっぱり誰もいない。
あぁなんだよ。まかれてしまったのかと思いながら、奥の個室の方へ進んでくと急に、すっと重力がなくなった。
足元をすくわれて落ちる感覚。安心して踏んだ地面が失われたようで、何が起こったのか理解するより早く、すとんっと落ちた。
僕は螺旋を描きながら転がる。あちこち擦りむいて何度も腰を打って、ゴロンゴロンと回転して、最後は足の裏が上手く地面を捉えたけれど、つんのめってべタンッと倒れ、地面に頭突きしてやっと止まった。目の前に光の粒子が舞っている。アニメのように本当にちらちらと、火の粉が踊っているようだ。打ち所が悪いかもと不安になった。大丈夫かな僕の脳みそ。
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