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『もうとっくの昔に食べ終えたアイスの棒を舐めながら、ゲラゲラと笑い転げてる小六の弟。何が楽しいんだか。どうでもいい動画を延々と流して、夏休みを無駄使いしてる。勿体ない。我が家の夏の風物詩は、今日も平和でなによりだ。
それにしてもお気に入りのワンピから出てる二の腕と、蚊に刺された跡が恨めしい。
目立つじゃん。くそう。
私はつま先で弟のお尻に八つ当たりの浣腸して、リビングを出る。もわっとした熱気と「なんだよー!ねーちゃん!」という非難の声を無視して、玄関で私はひとり腕を組み、悩んだ挙句に思い切ってワインコルク色の大人びたヒールの高いサンダルをチョイスした。お母さんのだけど。ちょっくらお借りします。だって今日は、図書館で蓧前君と一緒に勉強するんだもの』
そこで僕はハッと気づいて顔を上げる。『蓧前』は僕のことだ!
アルパカを見て、
「こ、これ!この本!佐藤さんが書いたの?!」
「はて、さて。ワタクシ佐藤様を存じ上げませんので……なんとも。先程も申し上げましたとおり。こちらの棚は、全て貴方様に関する書物なのですが……」
はー。そういう事か……僕が今探しているメイドの子──それは佐藤実果という、この本を書いた本人だ。
でもこの量は、全部彼女が書いたわけじゃないだろうけど、一生かかっても読めそうもない。
そう思いつつ、また本に目を落とす。
『私が珍しく順調に夏休みの課題を消化できてるのは、図書館でばったり蓧前君に会えたおかげなんだ。パーティションで区切られた、一人用の読書机に向かって勉強してる。彼の後ろ姿を見つけて、内心、神様に感謝した』
まじかよ。嘘じゃないのかこの本。すごく嬉しい。
佐藤さんがそんなふうに思ってくれてたなんて。
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