うみべのやまねこ

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あるところに、 とってもおっきいやまがありました。 そこにはたくさんのどうぶつたちがすんでいました。 みんななかよくくらしています。 ところがやまねこはちがいました。 「ひとりのほうがきらくでいいや」 あさはおきたいときにおきて、 すきとおるわきみずでかおをあらい、 きせつのおもてなしをうけ、 よるにはほしにむかってうたをうたう。 そんなきままなせいかつをおくっていました。 しかし、たのしそうにあそぶみんなをよこめでみては、 すこしうらやましくおもうのでした。 そんなあるひ、やまねこはおもいました。 「ここのせいかつにもあきてきたな。 どこかとおくまででかけてみよう。」 やまねこはやまをでていくことをきめました。 にもつをまとめると、 うきうきしたきぶんでやまをくだっていきました。 どれくらいのきょりをあるいたころか、 しおかぜがやまねこのひげをゆらしました。 やまねこはうみまでやってきたのです。 うまれてはじめてみるなみやすいへいせんに、 やまねこはまるいめをさらにまるくしておどろきました。 「なんてひろいせかいなんだろう!」 やまねこはうれしくてかいがんをはしりまわりました。 すなはまははしりにくいことをしりました。 うみのみずはしょっぱいことをしりました。 きがついたころには、 やまねこはみなとについて、 ゆうやけがあたりをあかくそめていました。 みなとにはおおきなふねがたくさんとまっていました。 そのかんぱんではにんげんたちのたのしそうなこえがひびいていました。 ともだちやこいびと、かぞくといっしょに。 しあわせそうなえがおをゆうやけにむけています。 やまねこはそれをじっとみつめていました。 みなとにはふねがいったりきたりしています。 やがてゆうひはしずみ、あたりをまんてんのほしぞらがつつみました。 はじめてすごすうみべでのよる。 やまねこはなんだかさみしくなってきました。 「こんなときはうたでもうたおう。」 やまねこはほしぞらへうたをおくりました。 すると、 いっしょにうたうねこのこえがきこえてきました。 しかしすがたがどこにもみあたりません。 やまねこは、 「きみはだれ?」 そうきいてみました。 すると、 「さみしそうなうただね。ぼくもきみとおなじだよ。」 とかえってきました。 「さみしくなんかない!おれはすきでここにいるんだ!」 やまねこはさみしさをはねのけようとうそをつきました。 「それはごめんよ。きみはとおくからきたみたいだね。」 「そうさ!あのやまのむこうのむこうの、ずっととおくのやまからやってきたんだ!」 「それはたいへんだったね。 ぼくもあしたずっとずっととおくにでかくなくちゃいけないんだ。 でもちずもこんぱすももっていなくて。 すごくふあんなんだよ。」 「なんだそんなこと! おれはじまんのはなひとつでここまでやってきたんだぜ!」 ほんとうはなんかいもまいごになりそうになって、 なきそうになっていたのに、 やまねこはどうしてもつよがりたいようです。 ひさしぶりにはなすあいてができて、 やまねこはすこしうれしかったのです。 やまでのくらしのこと。 じぶんはずっとひとりだったこと。 ここまでのみちのりのこと。 うみのひろさにかんげきしたこと。 ふねのおおきさにおどろいたこと。 などなど。 たくさんおはなししました。 きづけばつきがいちばんたかくなっていました。 「ありがとう。 きみのおかげでゆうきがでたよ。 つらくてもがんばってみる。」 やまねこはいままでそんなことばをいわれたことがありませんでした。 「えっ、いや、そんなことないよ。」 やまねこはてれてしまいました。 「ううん。 きみとはなしたらげんきになれたよ。 ほんとにありがとう。」 やまねこはこんなにおしゃべりをするのも、 ありがとうをいわれるのもはじめてでした。 すごくうれしいきもちになりました。 そして、すこしとまどいながらもやまねこは、 「じつはきいてほしいことがあるんだ。。」 と、 ほんとうはすごくさみしかったこと。 ほんとうはみんなとあそびたかったこと。 ほんとうはだれかのえがおがこいしかったこと。 などなど。 おもいをぶつけました。 すると、 「ぜんぜんさみしがることないよ。 だって、きみにはもうぼくがいるじゃないか。」 そらにはながれぼしがながれたみたいです。 「ここまでやってこれたんだから、 ゆうきだってひといちばいあるはずだよ。 きみはいままでいじをはっていただけなんじゃないかな。 それにあんなにすてきなうたがうたえるじゃないか!」 そらのほしは、にじんでいくえにもかさなってみえました。 やまねこはうれしくて、ないてしまいました。 すると、うたがきこえてきました。 「ほら、いっしょにうたおうよ!」 やまねこはひっしになきやんで、おおきなこえでうたいました。 うれしさをうたうことは、さみしさをうたうことよりたのしいことをしりました。 ふたりはずっとたのしそうにうたいつづけました。 きがつけば、そらはあかるみはじめ、 あたりはうっすらあかくなっていました。 「そろそろでかけなくちゃ。」 こえのぬしはいいました。 「そうだね。 きょうはいいてんきになりそうだし、 しゅっぱつにはさいこうのひだ!」 「ありがとう。 すごくたのしかったよ。」 それをきいてやまねこはふたたびなきそうになりましたが、 ひっしにこらえて、 「ありがとう。 しゅっぱつのまえにあくしゅをしないか。 それがやまのせかいのおきてなんだ。」 やまでどうぶつたちがしていたのを、 やまねこはうらやましくおもっていたのです。 「わかった。 いまそっちにいくよ。」 やまねこははじめてのあくしゅに、むねがどきどきしました。 あさひにてらされて、こえのぬしがすがたをあらわしました。 やまねこはびっくりしました。 「おどろかせてごめんよ。」 こえのぬしはうみねこだったのです。 「きみにあえてよかった。 つらいときはそらをみてあのうたをおもいだすよ。 だからきみも、 つらくなったらそらをみあげてぼくのことをおもいだしてね。」 ふたりはかたいあくしゅをかわしました。 「それじゃあ、つぎのかぜにのっていくよ。」 「きをつけて。またいつかあえるといいな。 そのときはいっしょにうたをうたおう。」 「もちろんだよ。」 つよいつよいかぜがふいてきて、 うみねこのからだをそらにうかべました。 「ありがとう。」 そういって、うみねこはすいへいせんのむこうへとんでいきました。 やまねこはそれがみえなくなるまで、 ずっとながめていました。 みなとのふねのうえに、 めをさましたにんげんたちがでてきました。 「きょうもいいてんきだね。」 「このまちはどんなまちなんだろう。 すごくたのしみだね。」 そういいながら、むじゃきにわらっています。 やまねこはそれをみても、 もうさみしくおもいませんでした。 うたをくちずさみながら、 そのながいながいしっぽをかぜにゆらしていました。
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