異世界転生

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 歩いて行くと道の途中からその先は描かれていない空間が、何もない姿で登場する。時々空を飛んでいる鳴き声を知らない鳥達が、急に僕の知っている鳥の鳴き声に変わったりする。10年前に架けられた橋が急に消えていて、その川を渡る為に相当な遠回りをしなければならなくなる。  「世界の崩壊は進んでいるわね。」  忽然と姿を現す玲奈。  「うわっ」  僕は咄嗟に驚く。無理も無い、自分の部屋の一室なのだから。  「そんなに驚かなくても。あなたは今この瞬間、ここに私が来て欲しいってイメージしたでしょう?だから私はここに現れた。あなたが私を呼んだのよ。」  玲奈はそういうと、どこから持って来たのかわからないけど、ちゃんとお皿の上にのったコーヒーカップで、コーヒーを楽しんでいる。  「電気つけていないのに明るい。」  「そうね。あなたの世界が崩壊に近づいている証拠。」  「崩壊するとどうなるの?」  「あなたの思念はこの世界、宇宙の中から完全に消去される。」  「何故、玲奈さんとはこうやって会話できているの?」  「私は、アストルシアの民だから。こうやって自在に時空を飛び越えて移動ができる。あなたの思念の中にも入りこんで、こうやって会話もできる。でも忘れないで。あなたの肉体は核爆発で全て木っ端みじん。あなたは緊急避難的にこの世界を作り出して逃げているけど、お分かりのとおり、段々と矛盾が広がって行って、やがてあなたは完全なる消滅と無を受け入れる日が来る。」  「そんなの嫌だよ。」  「そうよね。嫌よね。」  「戦い方を教えてほしい。インフォシニアとの闘い方。」  「いいわよ。あなたにはその権利がある。あなたはあなたが将来妻にするはずだった人を、インフォシニアに寝取られた。だから奪い返す戦いを起こす権利があるわ。」  玲奈は髪をポニーテールに結っていたゴムを外して髪を降ろす。髪の毛の中から一本のピンが床に落ちて来る。玲奈はそのピンを拾い上げると、重行の頭に手をやって、すっと差し込んだ。  体中にエネルギーがみなぎる。重行の全身に赤と白の巨大な光が渦巻いた。光の渦は次第にその渦巻きの速度を落としつつ、重行の体に定着する。  「こ、これは?」  「戦闘服ね。アストルシアの戦闘服。」  「これで戦える?」  「そうよ。アストルシアの民ができる事は、これで全部できるようになる。あなたは私のあげたピンによって、いつでも自在にその力を引き出す事ができる。」  「空も飛べたりするのか?」  「飛べるわ。」  玲奈は指をパチンと鳴らす。空間が急激に変化して、自宅の家の屋根の上空に浮かんだところで気が付いた。  「どう?空を飛んだ気分は?」  玲奈は空中に胡坐をかいて浮かんでいる。重行はおろおろと左右を見まわす。  「もうちょっとしっかりしてくれないかな。その戦闘服高いんだから。そして位の高い人にしか認められないものなの。だからちゃんとした立ち居振る舞いを・・・」  そんなやりとりをしている最中に、遠くから赤い光線が重行めがけて飛んでくる。  「うわっ」  咄嗟に玲奈が間に入って手をかざす。赤い光線は重行にあたる寸前で跳ね返された。  「もう来たわ。早いわねあいつらも。さぁ、もうあなたの生家とはお別れよ。飛べるわね?」  「は・・はい!」  玲奈は急速に上空に矢のように飛び上がる。重行もその後を追う。雲を突き抜けて上空まで来ると突然苦しくなる。  「本来は虚構の中の出来事だから何も苦しくないはず。でもあなたの中の正しい科学の知識があなたをそうさせている。固定観念が解けるのももうしばらくの辛抱だけどね。あの遠くの赤い光、見えるかしら?」  二人が飛び続けた先に赤黒い光の靄のようなものが浮かんでいる。その先には赤黒く輝く、地球?地球だ!  地球上は火の海のようになっていた。海まで赤く燃えているかのようだ。そうだ、地球は滅んだのだ。  「御覧のとおり、この隙間の外を出ると、あなたはあなたの観念の領域から離脱して、現世に行く事になる。そこからが大変なんだけど、良いかしら?」  一旦二人は、赤黒い地球が姿を見せる、靄の中に漂う裂け目のような世界の入り口を前に、立ち止まり空中で停止した。  「もう、後戻りはできそうにない。行くしかない。そして、夏美を取り戻す!」  「そうね。それでこそ男ね。」  二人はうなずくと、再び飛行を再開し、その割れ目の中に飛び込んだ。重行は重行の思念の世界とお別れとなる。重行は新たなる実体化として現実世界に降臨する事となった。それはつまり、重行の正式な死を意味していた。
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