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6
明日が来た。待っていた明日が、今日になったのだ。
いつもと変わらぬ朝。
祐介は、何も異変がないことを確かめて、自転車を漕ぎ、学校へと向かった。
いつもと、何も変わらないはずだった。だが駐輪場に、美紀の笑顔はなかった。「おはよう!」という言葉もなかった。
《教室にいるんだろう》
そう思いたかった。美紀は時々、早く来ることがあるのだ。今日が、その日だったに違いない。
しかし、教室にも、美紀の笑顔はなかった。
チャイムが鳴った。始まりの合図だ。しかし、祐介にとっての始まりの合図は、美紀の笑顔、そして「おはよう」の一言である。
野口が教室に入ってきた。
「珍しいなあ。西崎、休みか?」
野口が誰かに問いかける。しばらくして、祐介は、自分に問いかけられていることに気付く。
「・・・・・・知りません」
祐介は、静かに言った。
「『旦那』が、知らん言うてるんやから、もう、誰に訊いても分らんやろ」
誰かが笑った。
普段の祐介なら、恥ずかしそうな笑みを浮かべながら否定するところだが、今日はそんな気分ではなかった。
「ほな、今日も一日、がんばってな」
野口は言い、教室を出て行った。
祐介はやる気が出ず、机に突っ伏した。
いつの間にか、眠っていた。
目が覚めたのは、二限目が始まって、十分ほど経った時だ。一限目は、完全にサボってしまったわけだ。
《健一に頼むか・・・・・・後で英語のノート、写さしてもらおう》
普段なら、健一ではなく、美紀だった。しかし、今日は休みなのだ。
祐介は、斜め後ろの美紀の席を見た。
《あれ・・・・・・?》
そこには間違いなく、美紀がいた。いつものように、ちゃんと座っている。
《よかった、何事もなかったんだ・・・・・・》
祐介は、周りに悟られないよう、そっと、笑顔で「おはよう」と、口を動かした。
美紀が、いつもの可愛い笑顔で、「おはよう」と返してくれる・・・・・・
やはり、今日はいつもと違った。
美紀は、何も言わなかった。ただ、祐介を見ていた。無表情だった。いつもの幹ではない。美紀の姿をしているが、美紀じゃない。何より、目の色が違う。なんというか、不気味だった。祐介はかすかに、美紀に対して恐怖感を覚えた。
睨まれるならまだいい。むしろ睨んでくれたほうが、気が楽だった。怒っているということが、一目で分かる。しかし美紀は、睨むわけでもなく、笑いかけるわけでもなく、ただ祐介を見つめていた。放心状態などではない。しっかりとした意思を持って、しかし、それが相手に伝わらないように、静かに見つめていた。
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