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見つめていたと言う表現は、不適切かもしれない。祐介は気づいた。美紀の瞳には、何も映っていない。そう、彼女は何も見ていないのだ。偶然、祐介の方を向いていただけ・・・・・・
祐介は、黒板を見た。亀山が、評論文の解説をしている。
背筋に、寒気が走っていた。美紀の瞳が、不気味で、怖くて・・・・・・
祐介はまた、机に突っ伏した。頭を抱え込んだ。
《なんなんだよ・・・・・・一体・・・・・・》
チャイムが鳴った。
ハッと、目が覚める。《夢か・・・・・・?》
夢であってほしかった。
四限目が終わり、昼休みとなる。いつものように、美紀と健一が、祐介の机に弁当を持ってくる。
「さ、食べよ!」
言ったのは、美紀だった。間違いなく、美紀だった。笑顔が可愛かった。瞳が明るかった。
「あっ、待って、手を洗ってくるから」
健一が、席を立つ。
「俺も」
祐介は、とっさに席を立った。健一なら、相談に乗ってくそうな気がした。健一は、祐介が美紀を好きなことを知っている。他にも、美紀に話せないことのほとんどを、健一には話していた。それだけ、健一のことも信用していた。
「健一」
祐介は、廊下に出てすぐ、声をかけた。
「なんか、あったんやろ?」
健一は、真面目な顔で言った。結構、勘が鋭いのだ。「お前、朝から、変やったもんな」
「・・・・・・実は・・・・・・」
祐介は、昨日の出来事、そして、今日の美紀の様子を語った。その間に二人とも、手を洗い終え、教室の前に戻ってきていた。
「後で話そう。ちょっと、考えさせてくれ」
健一は言い、真面目な顔を、普段のお調子者の顔に戻した。
「悪い、お待たせ!」
健一が笑って言う。
「遅い!」
美紀が怒る。しかし、その表情はどう見ても、笑っている。
いつもの、美紀だった。
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