第二章 変貌

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第二章 変貌

      1  翌日、午前六時。  静かに、雨が降っている。こういう日は、良くも悪くも、よく予感が的中するものだ。  目が覚めたときから、なんとなく嫌な予感がしていた。そして、その予感は、見事的中することになる。その結果として、こんな朝早く、朝食もとらずに、自家用の白いセダンを走らせている。  視界に、パトカーの赤い光が見える。一台や二台ではない。大量に停まっている。マンションの駐車場では、青いビニールシートを使って、現場が隔離されていた。  弓村泰行は、愛車のセダンを道の脇に停めると、雨でぬれたアスファルトの上に降り立った。野次馬を掻き分け、駐車場を封鎖する黄色いテープのところまで行き、若い巡査に警察手帳を見せる。素早く、テープをくぐる。若い巡査が敬礼しているが、一瞥もしなかった。面倒くさい。  青いビニールシートの中では、中年の刑事が指揮を執っていた。 「まずは、現場の聞き込み。それから、凶器の探索、および被害者の身元の割り出し。すぐに取り掛かってくれ。収穫の有無に関わらず、九時半には、捜査本部に戻るように」  大きな声で、部下に指示を飛ばしている。部下が動き出してから、中年の刑事は、彼の存在に気付いた。 「誰や?」  傲慢な態度がむき出しになる。いやな男だ。 「捜査一課の弓村や。この事件の捜査の指揮を執る」  弓村は警察手帳を見せた。刑事の顔色が変わる。 「失礼しました、弓村警部。六条署の石山です」  階級を見てか、弓村の名前を聞いてかは分からないが、刑事の態度が豹変した。こういう男は大嫌いだ。 「被害者の身元は?」 「分かりません」 「死体の状況は?」 「・・・・・・ご自分でご覧になったほうが、よろしいかと」  死体にかけられた、グレーのシートを指さす。弓村は怪訝な顔をして、シートを捲った。  嫌な予感と言うのは、早朝の呼び出しではなかったらしい。 「これは・・・・・・」  酷い有様だった。死体の顔が、完全につぶされている。 「・・・・・・ひどい・・・・・・」弓村は呟いた。  被害者は、何も身に着けていなかった。被害者の身元確認は、大幅に遅れることだろう。頭蓋骨は完全に砕かれているようだ。顔の復元にも、時間がかかるに違いない。 「科捜研に連絡は?」 「まだです」 「科捜研の関口という技官に、すぐに連絡を取ってくれ。俺の指示やって言えば、すぐに来るはずやから」  石山が頷く。 「第一発見者は?」 「あそこです」  石山が、パトカーの後部座席を指さす。二人の巡査が、そこに座っている。二人とも、蒼い顔をしていた。 「彼らが?」 「はい。交番の巡査です。午前五時、匿名の女性の声で、電話が掛かってきたそうです」  説明を続けようとする石山を制して言う。 「詳しい話は、本人たちから聞く。自分の仕事をしろ」
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