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弓村は、パトカーの方へ歩いていった。後部座席の窓をノックし、ガラスに警察手帳を押し付ける。ドアロックが開いた。
「捜査一課の弓村や。きみらが、第一発見者やって?」
「はい。上田巡査です」
「野嶋巡査です」
二人が、交互に軽く頭を下げる。
「匿名の電話が、掛かってきたって?」
「はい。女性の声でした。『マンションの駐車場で、人を殺した』と」
「そう言うたんやな?」
「はい」
「で、現場に来てみたら、この有様やったと?」
「・・・・・・はい」
まだ、二人とも若い。死体を見た経験など、皆無に違いない。ましてや、惨殺死体を発見したのだ。相当、気分が悪そうだった。
弓村は、検視官に声をかけた。岡本と言う男で、今までにも何度か、現場であったことがある。
「岡本さん」
「弓村警部、おはようございます。それにしても、清々しい朝ですなあ」
くだらない冗談で緊張をほぐすことも、今は必要だった。何しろ、朝食前にあんな死体を見せられたのだ。、まったく、嫌になる。
「まったくです。実は私、まだ、朝食を食べてないんですよ」
「それは・・・・・・ハハハ、ついてないですねえ」
二人とも、真面目な表情に戻る。
「死因は?」
弓村が訊いた。
「胸部を鋭利な刃物で刺された、いえ、切られたと言った方が適切でしょうか。とにかく、出血死です。死ぬまでに、かなり時間がかかったと思われます。鈍器で頭を潰したのは、被害者が死んでからでしょう。それから、被害者の腹部、見てませんよね?」
「見てません」
「見んほうがええと思います。さすがの弓村警部でも、多分、朝飯食えませんよ」
「・・・・・・」
「腹部及び胸部には、切ったというより、切り裂いた、あるいは、刃物を叩きつけたという感じの傷がありました。それも、何箇所もです。外見では、数え切れません」
岡本が言った。顔色が蒼い。「解剖も、苦労せんでしょう。もう、腹部が開かれてるんやから・・・・・・」
「・・・・・・ひどいな・・・・・・」
弓村は呟いた。忠告通り、死体を見るのはやめておく。
「で、頭を潰したものは?」
「金属バットのような、棒状である程度太く、それでいて硬い。金属製品だと思います。金槌やスパナのような、小さいものではありません」
「死亡推定時刻は?」
「昨夜の二十三時から、午前〇時の間です」
弓村は、ブルーシートの入り口を見た。彼の部下が到着したようだ。若い刑事が数人、入ってきた。弓村はその中の一人、西峯刑事に声をかける。
「おそらく、殺害現場は別の場所や」
「はい?」
前置きなしに突然ものを言う弓村に、西峯が戸惑う。
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