第二章 変貌

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「死体の周りに、血痕がまったく残ってないやろ? どっか別のとこで殺されて、ここに捨てられたんや」  弓村は、死体に視線をやりながら言った。「死亡推定時刻以降に、この駐車場に、車の出入りがなかったか、調べとけ」 「分かりました」  西峯が頷く。「警部は、どうされるんです?」 「出勤が、公用車じゃなかったからな」  弓村は、愛車のキーを見せた。「六条署の駐車場に停めてくる」 「捜査本部は、六条署ですね?」 「九時半から捜査会議や。遅れんな」 「分かりました」  西峯が頷く。  弓村はブルーシートの外に出た。街中の不味い空気も、今はうまく感じる。少なくとも、ブルーシートの中よりは、新鮮な空気だった。  時計の針が、九時三十分を指す。それと同時に、弓村が立ち上がった。 「捜査会議を始める。まず、初動捜査の報告から」  石山を見る。弓村に睨まれた石山は、かなり小さく見えた。 「現場付近の聞き込みを行ったんですが、目撃者はいませんでした。凶器の刃物、および鈍器は、見つかっておりません」 「車の方は、どうやった?」  今度は、西峯を見る。西峯は、石山と入れ違いに立ち上がり、手帳を開いた。 「現場に向かっていたかどうかは分かりませんが、その時間、白の軽自動車が一台、付近を巡回していた警邏車両に、目撃されています。ナンバーは不明。警邏車両に乗ってた巡査によると、不審者には見えなかったそうです」 「運転手は、見ていないのか?」 「はい。見えなかったそうです」 「白の軽自動車か・・・・・・。現場付近、および、ここ数ヶ月に現場付近から転居した者の中で、白の軽自動車を持っている者を、リストアップしろ」  弓村が言った。「犯人はおそらく、土地勘のある人間やろう。派手な殺し方をして、なおかつ、死体を目立つところに置く。もしかしたら、誰かへの見せしめかもしれん。もしそうやとしたら、脅迫の標的が、あの辺に住んでいるんやろう」 「でも警部、それを調べるためには、まず、被害者の身元が分からないといけないんじゃないですか?」  鳴海さくらが言った。今回の捜査員の中で、唯一の女性刑事である。 「そうや」  弓村が頷く。「被害者の持ち物は、発見されてないんか?」  石山が立ち上がり、 「付近を捜索しましたが、被害者の持ち物と思われるものは、何も発見されていません」  と答える。  弓村は捜査本部となっている会議室の隅に座る、科学捜査研究所の若き技官、関口の名を呼んだ。 「なんですか?」 「被害者の顔の復元図ができるまで、どのくらいの時間がかかる?」  関口は、捜査会議に参加するのが初めてなためか、恐縮しながら立ち上がった。 「普通はまず、頭蓋骨の型をとるところから始めます。そのためには、今回の場合、司法解剖後、頭蓋骨を復元することろから始めないといけません」  関口が、緊張しつつもはっきりとした口調で言う。 「で、具体的にはどのくらいの時間がかかる?」
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