第二章 変貌

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「分かりません。頭蓋骨復元に時間がかかれば、それだけ後の作業が遅れます。更に、頭蓋骨の一部がかけ、紛失していたとしたら、分析に時間がかかります。まあ、現代のコンピューターも。科捜研の技官も優秀ですから、大幅に遅れることはないと思いますが。早くても、明日の夕方になるでしょう」  弓村は小さく頷き、「なるべく、急ぐように」と言って、着席するよう促した。  弓村も、腕組みをしたまま、腰を下ろした。  被害者の身元はおろか、顔さえも分からないのだ。今の段階では、何もできない。初動捜査は遅れをとるばかりだ。これは事件の早期解決にも大きく影響する。  弓村は、再び立ち上がった。 「もう一度、現場付近の聞き込みをやろう。なんか出るはずや。なんでもええ。付近のコンビニの防犯カメラに何か写ってないか、現場付近で、不審な出来事が起こってないか、なんでもええ、徹底的に調べろ」  刑事たちは勢いよく立ち上がり、捜査本部を飛び出していく。  西峯が訊いた。 「盗難車のリストも、作った方がいいですか?」 「頼む。地域は、京都市内全域。府警本部の交通課には、こっちから連絡しとくさかい、協力してもらえ」 「分かりました」  西峯が、捜査本部を出て行く。 「じゃあ、僕は、科捜研に戻ります」  関口は言った。 「そうやな。じゃあ、そうしてくれ」  弓村は言うと、自らも、捜査本部を出ることにした。交通課への連絡を済ませ、警邏課でパトカーのキーを借り、死体が運ばれた、警察病院へと向かう。  もう、雨は止んでいた。   「もうすぐ、終わるそうです」  病院で待機していた、河崎刑事が言う。弓村は、医者の許可を得て、解剖室に入った。 「直接の死因は、やはり、大量出血ですか?」  弓村が訊く。 「ええ。どうやらそのようです。検視官にお聞きになったとおもいますが、顔を潰されたのは、被害者が死んでからです」 「腹部を切り裂かれたのは?」 「死ぬ前でしょう。被害者が死ななように、慎重に切ったものと思われます。まるで、拷問ですよ」 「・・・・・・」 「それを隠すために、死んでから、傷を大量につけたんじゃないでしょうか」 「拷問の形跡を、隠したかったと?」 「そう思うんですが」 「そうですか・・・・・・やはり、こんだけ傷をつけると、出血量は半端じゃないでしょう?」 「ええ。それこそ、あたり一面、血の海じゃないですか?」  この解剖医、よくもそんなことを平気で言えるものだ。 「正確な死亡推定時刻は、分かりましたか?」 「検視のときと同じです。午後十一時から、午前〇時の間でしょう」 「身体的な特徴は?」 「と、言いますと?」 「骨折した形跡があるとか、病気持ちだったとか、刺青があるとか」 「最近、歯医者にかかっていたようです。奥歯の詰め物が、まだ新しいものでしたから」 「そうですか。どうも、ご苦労様でした」  弓村は言い、解剖室を出た。河崎が、こちらを見る。 「どうでした?」 「最近、歯医者にかかってたみたいや。北原と、歯医者を洗え。所轄からも、何人か応援に行かす。今日中に、身元を割り出す気で行け」 「分かりました」  河崎が言った。弓村はすでに、駐車場に向かって歩き出していた。  よく考えると、まだ朝食をとっていない。
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