空を飛べる日(初稿版)

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 静かに、風が吹いていた。桜の花が舞い、アスフアルトの上に落ちてゆく。  悲しく、働なく、苦しい。  暗く、硬い地面の上で、桜は一盤を終えるのだ。  ただ、静かな風が、吹いただけなのに。  十年前 春  バイクのタイヤが、桜の花びらを靭いていつた。桜は黒ずみ、力なく地面に舞い落ちる。そして、永遠の眠りにつく。  バイクの運転手は、それに気付いてもいなかった。やがでバイクは、マンシヨンの前で停まった。男はパイクを降りると、エレベーターで三階へと向かう。  廊下には、彼の足音だけが響いている。  彼は三一〇号室の前で立ち止まり、チャイムを押した。呼び出し音が廊下に響く。  注意深く周りを見圃す。雛もいない。  ゆっくりと、ドアが聞いた。 「・・・・・・」  十代の女の子が、顔面蒼白で立ちつくしていた。 「大丈夫か?」  少女が頷いてから、彼は中に入り、ドアを開めた。鍵をかけ、チエーンロツクもかける。そして、それらを確認する. 「・・・・・・どうしよう・・・・・・」  今にも泣き出しそうだった。 「大文夫だよ、リコ」  リコと呼ばれた女の子は、静かに泣き出した。数え切れない大粒の涙が、頬を伝う。 「大丈夫、俺が何とかするから」  彼は言い、奥へと入っていった。  リビングの全てが、赤かった。床はもちろん、ソフアーも、テレビも、食卓も、そして、側れている両親も。 《死んでいる・・・・・・》  一目で分かる。頭から足まで、金身が赤く染まっている。  彼は、こみ上げてくる吐き気を必死に抑え、二人の死体に近付いた。  リコが入ってきた。 「来るな」  彼の言葉は聞こえていない。リコは静かに呟いた。 「どうして・・・・・・? 」  かなり、混乱しているらしい。「わたし・・・・・・なんで・・・・・・どうして・・・・・・」  彼は答えず、どうするべきかを考えた。 《このまま、リコを守れないようでは・・・・・・自分は何も変わっていない・・・・・・ずっと、リコを守ると書ったじやないか。そのためには、どんなこともすると・・・・・・》  リコが泣き出す。 「ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」  涙が、リコの頬を伝う。  彼は、死体を見た。 「・・・・・・謝ることなんか、ないよ」  彼が呟く。「こいつらが悪いんだ・・・・・リコのせいじやない」  彼は、リコの左腕を見る。くっきりと、痣が残っている。今倒れている、こいつらにやられた痣だ。 《考えろ、考えろ・・・・・・》  昼間、死体を持ち出すわけには行かない。たとえ夜になったとしても、彼はバイクしか持っていない。車ならともかく、バイクでは死体を運ぶことなど不可能だ。 「ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」  リコは、死体に謝っているのではなく、彼に謝っているのだ。それに気付いた彼は、そっと、彼女の頭をなでる。 「泣くなよ・・・・・・何とかなるからさ・・・・・・・」  彼は、彼女をつれて、ベランダヘ出た。  風は、やんでいる。 「・・・・・・・どうするの・・・・・・」  リコが訊いた。  彼は、淋しそうな表情で言った。 「何も、心配しなくていいから・・・・・・・絶対、お前を守ってみせるから・・・・・・」 「どうするの・・・・・・?」 「空を・・・・・・・空を、見てればいい・・・・・・・俺も、少ししたら、戻ってくるくるから」  彼は言い、部屋の中に戻った。  リコは言われたとおり、今にも泣き出しそうな曇り空を見上げた。  やがて、彼が出てきた。 「大丈夫・・・・・・もう、心配ないよ」 「どうするの・・・・・・・?」 「俺・・・・・・空を飛ぶ」 「・・・・・・え?」
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