第二章 変貌

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      4 「間違いないのか・・・・・・」 「間違いありません」  弓村の問いに、六条署の若い刑事、内海が答える。「間違いなく、沢村刑事です」 「・・・・・・」  歯科医院を調べた結果、該当する人間が、すぐに浮かんだ。それを調べたのが、内海だった。まさかと思い、調べ、そして、その人物の住所から、同僚の沢村刑事だと判明したのである。  弓村は、至急確認をとり、鬱陶しいマスコミを鎮めるため、情報を公開した。だが、弓村自身、そのことが信じられなかった。現役のベテラン刑事が惨殺されたと言う、その事実が。 「で、沢村刑事は、死ぬ前、何の捜査をしていたんや?」  弓村が訊いた。 「十年前の、強盗殺人事件、覚えていらっしゃいますか?」 「十年前の、強盗殺人?」  弓村は、記憶の糸を手繰る。十年前、彼は、保安課の麻薬捜査官だった。殺人事件は専門外。一切、扱わなかった。よって、該当する強盗殺人事件の記憶もない。 「どんな事件やった?」  弓村が訊く。 「僕も、あまりよく知らないんです。だから、お聞きしたんですが・・・・・・十年前といえば、僕はまだ、十五ですから」  内海が言った。「僕が、ここに配属になったときには、沢村さんは一人で、その事件の捜査をしていました。十年間、ずっと捜査を続けてきたそうです」 「沢村刑事と、いつも組んでいたのは?」 「特定の誰かと組むと言うことは、ありませんでした。沢村さんが組みたがらなかったんです・・・・・・でも、死ぬ前の日ははぜか、僕と組んで捜査に」 「死ぬ前の日、一緒にいたんか?」 「はい。その日の夕方、沢村さんが、用事があると言うので、別れたんです。それから、連絡がつかなくなりました」 「きみと沢村刑事が、最後に行った場所は?」 「十年前の事件の、被害者の遺族に会いに行ったんです。でも、会えませんでした」 「名前は?」 「西崎( )利子(りこ)です」  弓村は、受話器を取り、京都府警本部にかけた。 「捜査一課の弓村や。資料課に繋いでくれ・・・・・・そうや、大至急や・・・・・・あ、もしもし、弓村や・・・・・・そう、千葉に代わってくれ・・・・・・千葉か? 十年前の連続殺人事件の資料を、持ってきてくれ・・・・・・ああ、未解決の事件や・・・・・・六条署や。頼むで」  受話器を置く。弓村は、顔を上げた。「えっと・・・・・・」 「内海です」 「ああ、内海くん、石山刑事と一緒に、昨日の被害者の足取りを追ってくれ。特に、きみと別れた後、どこで犯人と出くわし、殺されたか、それが知りたい」 「分かりました」  内海は言い、石山と共に捜査本部を飛び出していく。弓村は西峯を呼んだ。「車のリストは?」 「もう少し、待ってください。今日中には仕上げます」 「その中から、沢村刑事と関係があったと思われる人物を、ピックアップしておいてくれ」  弓村は、鳴海さくらと北原を呼んだ。「被害者宅へ行くから、鳴海は、車を回しといてくれ。北原、もうすぐ、千葉が来よるさかい、来たら、資料を預かっといてくれ。それと、沢村刑事のデスク、一応、調べといてくれ」 「分かりました」と、二人の刑事は頷くと、めいめい、与えられた仕事に向かった。
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