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しばらくして、弓村が玄関を出ると、鳴海さくらはすでに、パトカーで待機していた。弓村が、助手席に乗る。
「沢村刑事の住所は、西大路八条や」
さくらがアクセルを踏み、パトカーが発進する。
「やっぱり、怨恨でしょうか?」
さくらが訊く。
「さあ、分からん。俺はそうやと思うけど」
「犯人は、女性でしょうか」
「ああ、交番にかかってきたって言う、匿名の電話か?」
「はい」
「女性かもしれんなあ、たしかに、犯人が男やと決め付けるのは、まずいと思うけど」
弓村が言う。「けど、俺は男やと思う」
さくらが訊いた。
「被害者が全裸で、所持品が発見されなかったのは、やはり、被害者の身元を隠すためでしょうか?」
「やろうな。物取りが、あんな殺し方をするはずがないからない。あれは、相当恨みを持ってるおんの犯行やろ」
弓村は言った。「おそらく犯人は、かなり、自己主張の強い人間やと思う。派手な殺し方、そして、交番への電話。自分がやったっていうことを、アピールしたいんやろうな」
「警部、そういう人間は・・・・・・」
「また、犯行に及ぶ可能性が高い。それに、もしかしたら、無差別殺人の可能性もある」
「でも警部、最初に怨恨だと、ご自分で仰ったじゃないですか」
さくらが言った。パトカーはもう、八条通に入っている。
「怨恨の可能性もある。見せしめの可能性もある。今はどれとも言えん」
弓村は言った。「そこを左」
さくらが、ハンドルをきる。
「次を右。アパートの向かいの一軒家や」
弓村が言った。
沢村刑事の自宅は、古びた借家だった。一階は台所と八畳の和室。二階は、六畳の和室と物干し。応援を呼ぶべきかと思っていたが、予想通り、二人だけでも調べられそうだ。
「何を探します?」
さくらが、手袋をはめながら訊く。
「アドレス帳、アルバム、何でもいい、沢村刑事の交友範囲を示すもの。それと、脅迫状のようなもの。捜査していたという過去の事件について、自ら資料を作っているかもしれん。そういったものを探してくれ」
「警部は、沢村刑事が、捜査していた十年前の事件のせいで、殺されたと思っているんですか?」
「・・・・・・過去を蒸し返されたくない人間は、五万といるんや・・・・・・」
弓村は言い、手袋をはめた。
さくらは知っている。その『五万』の中に、弓村自身が含まれていることを・・・・・・。
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