第二章 変貌

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      7 「すみません、遅れまして」  千葉警部補がやってきた。時間は九時を回っている。 「昼やぞ、連絡したんは」 「すいません、こっちもいろいろ、手違いがありまして・・・・・・」 「まあ、ええわ。資料は?」 「これです」  差し出されたファイルを、弓村が受け取る。 「十年前に起きた強盗殺人は十二件です。そのうち十一件はすでに解決しています」  千葉が言った。  表紙には、『マンション一家強盗殺人事件』と書かれている。 「覚えがないな」  弓村は言い、ファイルを開く。 「事件の戒名は地味ですが、結構、派手に報道されていましたよ。ほら、マンションに住む一家が、強盗に殺された事件です」 「ああ、そういえば聞いたような気がするな」  弓村が頁をめくりながら言う。「たしか、両親と長男が殺されたんやったな?」 「ええ、そうです」 「ん? 待てよ、あの事件は結局、解決したんじゃなかったか?」  弓村が、頁を更にめくってゆく。「ほら、ここや」  弓村が、資料を指さす。「『凶器から、長男の指紋が検出された』」 「そうです。一旦、長男が犯人ということで解決しかけたんですが・・・・・・次の頁を読んでみてください」  頁をめくる。「これは・・・・・・」 「長男には、アリバイがあったんですよ。それによって、長男犯人説は崩れ、事件は結局迷宮入りです」 「凶器の指紋は、何か納得のいく説明がついたのか?」 「長男が帰宅後、犯人に殺されるまでに何かしたの形で凶器に触れたんでしょう。部屋には争った形跡もありましたし、長男と犯人が争う過程で、凶器を握ったのかもしれません」 「・・・・・・」 「警部、どうかしました?」 「いや、別に。それにしても・・・・・・強盗殺人犯が、なんでわざわざ、被害者を惨殺したんやろな」 「え?」 「この資料、見てみ」  弓村が指で示したところには、『被害者は顔面を叩き潰され・・・・・・』『身体の至る所に刺し傷があり・・・・・・』などと書かれている。「強盗殺人犯の目的は基本的には金や。殺すことじゃない」 「ええ、そうです」 「ほな、おかしいやないか。わざわざ、こんなひどい殺し方をする必要は、どこにもない」 「じゃあ警部は、強盗殺人に見せかけた、怨恨殺人だといいたいんですか?」 「現に、自宅にあった現金だけが盗まれて、現金通帳や印鑑には手を触れた痕跡もない」  弓村が、資料を読みながら言う。「継続捜査に切り替わってんのか?」
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