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「すみません、遅れまして」
千葉警部補がやってきた。時間は九時を回っている。
「昼やぞ、連絡したんは」
「すいません、こっちもいろいろ、手違いがありまして・・・・・・」
「まあ、ええわ。資料は?」
「これです」
差し出されたファイルを、弓村が受け取る。
「十年前に起きた強盗殺人は十二件です。そのうち十一件はすでに解決しています」
千葉が言った。
表紙には、『マンション一家強盗殺人事件』と書かれている。
「覚えがないな」
弓村は言い、ファイルを開く。
「事件の戒名は地味ですが、結構、派手に報道されていましたよ。ほら、マンションに住む一家が、強盗に殺された事件です」
「ああ、そういえば聞いたような気がするな」
弓村が頁をめくりながら言う。「たしか、両親と長男が殺されたんやったな?」
「ええ、そうです」
「ん? 待てよ、あの事件は結局、解決したんじゃなかったか?」
弓村が、頁を更にめくってゆく。「ほら、ここや」
弓村が、資料を指さす。「『凶器から、長男の指紋が検出された』」
「そうです。一旦、長男が犯人ということで解決しかけたんですが・・・・・・次の頁を読んでみてください」
頁をめくる。「これは・・・・・・」
「長男には、アリバイがあったんですよ。それによって、長男犯人説は崩れ、事件は結局迷宮入りです」
「凶器の指紋は、何か納得のいく説明がついたのか?」
「長男が帰宅後、犯人に殺されるまでに何かしたの形で凶器に触れたんでしょう。部屋には争った形跡もありましたし、長男と犯人が争う過程で、凶器を握ったのかもしれません」
「・・・・・・」
「警部、どうかしました?」
「いや、別に。それにしても・・・・・・強盗殺人犯が、なんでわざわざ、被害者を惨殺したんやろな」
「え?」
「この資料、見てみ」
弓村が指で示したところには、『被害者は顔面を叩き潰され・・・・・・』『身体の至る所に刺し傷があり・・・・・・』などと書かれている。「強盗殺人犯の目的は基本的には金や。殺すことじゃない」
「ええ、そうです」
「ほな、おかしいやないか。わざわざ、こんなひどい殺し方をする必要は、どこにもない」
「じゃあ警部は、強盗殺人に見せかけた、怨恨殺人だといいたいんですか?」
「現に、自宅にあった現金だけが盗まれて、現金通帳や印鑑には手を触れた痕跡もない」
弓村が、資料を読みながら言う。「継続捜査に切り替わってんのか?」
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