第一章 友情

1/13
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ

第一章 友情

          1 「おはよう! 」  声をかけられ、顔を上げた。そこにあるのは、美紀の可愛い笑顔。 「おはよう」  祐介も、大きな声で言う。なぜだろう、とても気分がよい。朝の接拶は、《今日も一日、がんばろう》という気になる。まるで、魔法の言葉だ。 「どう、調子は?」  美紀が訊く。 「うん、まあまあかな」 「もう、慣れてきた?」 「この学校に? 」  美紀が小さく領く。 「でも、ええ時期に引っ越してきたなあ」 「え?」  祐介が訊く。 「だってさあ、高校入学のときに引っ越しやろ? 学期の途中とかやったら馴染みにくいけど、入学と同時やったら、まだマシやん」 「・・・・・・」 「私も高校で、まだ友達少ないし」  美紀が笑った。でも、祐介は笑わなかった。 「・・・・・・どうしたん? 」 《なんか、悪いこと言った?》目が、そう問いかけている。 「・・・・・・引っ越しに、いい時期なんてないよ」  祐介が、静かに言った。「だって、友達と別れは、避けられないじゃないか」 「でも、新しい友達もできるやん」  美紀が、軽く祐介の背中を叩く。《元気出さんと》美紀の心の声が聞こえたような気がした。  この場所には、なんとなく、人を明るくするような雰囲気がある。いくら落ち込んでいても、人と人とが助け合って生きている。大都会のように、隣の人の顔も知らないという個人主義の生き方が、どれだけ淋しいものか。東京育ちの祐介にとって、この京都という街は、とても美しく見えた。  祐介は、そっと美紀に微笑みかける。 《ありがとう》  心の中で呟く。 「・・・・・・?」  美紀が、首を傾げる。「何?」  祐介は、美紀に聞こえていないことを確認し、 「なんでもない」  と、首を振った。しかし、照れた笑顔は、隠せなかった。 「おはよう!」  大きな声が聞こえる。振り向くと、駐輪場の方から、健一が手を振って走ってくる。 「おはよう」  祐介も答える。社交的な作られた笑顔ではない。心からのすがすがしい笑顔で、大きく手を振った。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!