第一章 友情

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         3  七限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。他のチャイムとは、なんとなく違って聞こえる。まるで、ラジオから突然好きな曲が流れてきたような、そんな気分である。 「ほな、日直、号令かけて」  野口が言った。 「起立、礼」  日直が、やる気のなさそうな声で言う。 「ほな、そのまま」  野田は、数学の教科書を教車の中に片付けた。「ホームルームやるしな」 生徒たちが着席する。机の中から教科書を取り出し、鞄の中に入れていく。 「このプリントは、ちゃんと親に見せるように。個人面談の日程表やからな」  野口がプリントを配りながら、大きな声で言った。 「先生、これ、親だけ? 」  誰かが訊く。野口は頷き、 「そうや。けど、中間考査が悪かった奴は、三者や」 「先生、俺、三者?」  訊いたのは健一である。野口は笑って、大きく領いた。 「お前、赤点、何個あったと思てんねん? 」  健一の表情がゆがみ、大きなため息をつく。そんな彼を見て、祐介と美紀は、顔を見合わせて笑っていた。 「健一らしいな」  祐介の言葉に、美紀が小さく舗く。  野口は、再び教壇の前に立ち、 「ほな、終わろか」  と言った。その言葉と同時に、生徒たちの緊張が解ける。 「起立、礼」  日直は、先程より大きな声で言った. 「掃除、忘れんな」  この野口の言葉が、解散の合図である。席を整え、生徒たちが教室を出て行く。 「よし、帰ろ!」  祐介は、健一に声をかけた。しかし健一は、すまなさそうな表情をした。 「悪い、野口に呼ばれてんねんか」 「え、なんで?」  美紀は、一応訊いた。祐介も美紀も、なんとなく想像はついている。 「こないだのテスト、赤点やってんか。ちょっと、話しよかって」  予想通りだった。 「へえ、がんばって」  美紀は言った。「じゃ、悪いけど、先帰るわ」 「うん、そうして」 「じゃ、健一。また、明日な!」  祐介が言う。 「バイバイ!」  ため息をつく健一に向って、大きく手を振り、二人は教室を出た。階段を下り、昇降口に向かう。 「なあ、図書館、寄らへん?」  美紀が言った。祐介は、ロッカーにスリッパを戻しながら訊く。 「え? 図書館って、どこ?」
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