26人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
病状が悪化したのは彼女が22になった時。
元々20歳まで持つかどうかも怪しいと言われていたから、と半ば諦めたような顔で彼女は言う。
毎日のように見舞いに来る俺を心配して、
「お仕事もあるんだから毎日来なくても大丈夫なのに」
彼女はそう言う。しかし伊達に何年も付き合ってきたわけではない。唇を触りながら何か言う時は嬉しい時。今も触っているから、俺が来るのは嬉しいのだろう。
「平気だよ。夏期講習とかの時期じゃない限り仕事の時間決まってるし、無理してるわけじゃないから」
俺は大学院を出たその年の春から、塾の講師として働いていた。彼女の家庭教師として教えていたのが功を奏したのか、わかりやすいと人気が出ている。夏期講習などの短期の集中的な講座がある時は、朝から晩まで塾にいることになるが、普段の授業は受け持つ数が決まっているので苦ではなかった。
それよりも、彼女と過ごす時間の方が大事だった。
最近の彼女は目に見えて痩せ衰えている。俺が見ていない時に遠いところに行ってしまいそうで、酷く怖かった。
最初のコメントを投稿しよう!