悲鳴

6/17

57人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
その時、転がっている死体に足をとられて転倒してしまった。 包丁が手から離れて床に転がった。 「いつもいつもいつもいつもお姫様扱いされてさぁ! どうせ今回だって、ずっと守られてきたんでしょう?」 ゆらり、ゆらりとゆれながら目の前に香が迫る。 あたしは左右に首をふり「そんなことない!」と、否定する。 でも、本当にそう? いざとなるといつでも純也が隣にいてくれた。 あたしは結局、守られていた。 否定することなんて本当はできないはずだった。 「嘘つき!!」 香の悲鳴が耳を劈く。 鼓膜が破れてしまいそうな声だった。 あたしは咄嗟に両耳をふさいで顔をしかめる。 「お願い香、正気に戻って」 「うるさい!」 香があたしへ向けて包丁を振り上げる。 投げ出してしまった包丁へ手を伸ばすが、それは遠すぎて届かない。 「死ねぇ!」 香の絶叫があたしの胸を突き刺す。 そんな風に思われていたなんて思わなかった。 香からすればあたしは本当にずるい女だったのかもしれない。 それでも……まだ死ぬわけにはいかなかった。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加