57人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
その時、転がっている死体に足をとられて転倒してしまった。
包丁が手から離れて床に転がった。
「いつもいつもいつもいつもお姫様扱いされてさぁ! どうせ今回だって、ずっと守られてきたんでしょう?」
ゆらり、ゆらりとゆれながら目の前に香が迫る。
あたしは左右に首をふり「そんなことない!」と、否定する。
でも、本当にそう?
いざとなるといつでも純也が隣にいてくれた。
あたしは結局、守られていた。
否定することなんて本当はできないはずだった。
「嘘つき!!」
香の悲鳴が耳を劈く。
鼓膜が破れてしまいそうな声だった。
あたしは咄嗟に両耳をふさいで顔をしかめる。
「お願い香、正気に戻って」
「うるさい!」
香があたしへ向けて包丁を振り上げる。
投げ出してしまった包丁へ手を伸ばすが、それは遠すぎて届かない。
「死ねぇ!」
香の絶叫があたしの胸を突き刺す。
そんな風に思われていたなんて思わなかった。
香からすればあたしは本当にずるい女だったのかもしれない。
それでも……まだ死ぬわけにはいかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!