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さっきまでの恐怖がスッと消えていくのを感じた。
純也が生き残るのならそれでいいかと思った。
純也がいない世界で生きていても仕方がない。
こんな世界で1人になるくらいなら……。
視界の中で純也があたしに包丁を向ける。
その刃先はどんどん近づいてくる。
そうだよ純也。
それでいいんだよ。
不思議と穏やかな気分だった。
お願い。
早く終わらせて……。
ザクッ……。
痛みはなかった。
殺人鬼に感染した子たちが、一様に痛みを感じていなさそうだったことを思い出す。
両腕から力が抜けていき、そのままベンチに腰を落とした。
人が死ぬときってこんな感じなんだ。
ぼんやりと冷静な頭で考えている自分がいる。
純也が視界の中で大きく深呼吸をしているのが見えた。
ありがとう純也。
あたしは純也に殺されるのなら本望だから……。
その時、激しい痛みを感じた。
顔をしかめ、うなり声を上げてうずくまる。
目の前にかかっていた灰色のフィルターはいつの間にか取れている。
「遥。大丈夫か?」
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