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灰色の目があたしを捕らえたのがわかった。
「あ……」
まずいと思ってもやっぱり体は動かない。
背中にブワッと汗が溢れ出す。
幸子がこちらへ向けて歩き出した。
ダメ。
逃げなきゃ。
こっちに来ちゃう!
目の前に机に手をついて立ち上がろうとする。
しかし、完全に腰が抜けてしまって立ち上がることもままならない。
幸子がどんどん近づいてくるのが見える。
その手に握られてカッターナイフには血がついたままだ。
あ……ダメだ。
このままじゃ本当に……。
そう思って呼吸が止まったときだった。
目の前に背中が現れた。
「来るな!!」
あたしをかばうように立ちはだかって叫んだのは純也だった。
「純也……?」
「大丈夫か遥。立てるか?」
視線を前へ向けたまま声をかけてくる。
「う、うん」
あたしはうなづき、どうにか立ち上がった。
純也が来てくれたおかげで少しだけ緊張がほぐれたみたいだ。
でも、幸子は立ち止まらずにこちらへ向けて歩いてくる。
「遥こっち!」
雪に手を掴まれて教室の端まで逃げ出した。
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